2人が本棚に入れています
本棚に追加
一風変わった三人兄弟
『いいかい。お前はお兄ちゃんなんだから、きっと弟達を守るんだよ』
『い、いやだ……! 俺ひとりじゃ無理だよ! 守りきれねぇよ!』
古びた木造の家の中で黒髪で長髪の男と小さな白髪の少年が話している。その後ろで女が2人の子供を抱きしめ蹲っている。生きてるのか死んでるのかわからないくらい微動だにしない。少年は今にも泣き出しそうな面持ちでボロ雑巾のように所々茶色く荒んだ黄色い着物の裾を力強く握っている。
彼らのいる家の周りは業火のように燃えていた。
(ーーなんだか懐かしい光景。これ誰とのやり取りだっけ?)
「……ぶ、こう……煌舞……」
(ん? 誰か俺の事呼んでる?)
懐かしい光景は誰かに呼ばれたことでシャットダウンし、代わりに瞼の裏の真っ暗闇が視界を覆う。
「いい加減起きろって言ってますよね!? この愚兄!」
「いっっだっ!」
白髪の青年が横向きで寝転がっていたらなにかの衝撃と鈍い音で目を開いた。背中の脊椎あたりに物凄い痛みを感じたからたぶん、いや、絶対蹴られたのだろう。
これがもし他の人だったのなら絶対に骨がズレたと思えるくらい蹴りが重たく起こされてるはずなのに永眠する所だった。
「蹴らなくてもいいじゃねぇか!」
抗議をしようと背中をさすりながら蹴ったであろう人物の方を向くと、そこには雪女もビックリしそうなほど冷たい目で見下している青髪の青年がいた。
彼の眉間にシワがより切れ長の目がまた一段と冷たさと怖さが増している。
「あんた、今何時だと思ってるんですか?」
普段よりも低く、ドスの効いた口調で静かに聞く。
これはめちゃくちゃ怒ってる証拠。下手な返しをしたらさっきの倍の威力の蹴りが来るだろう。もしくは拳。
「よ、夜の8時っす」
瞬時に姿勢よく正座をして、目を合わせないよう下を向く。
その姿勢をキープしていると、少し間があいて頭上から深いため息が聞こえた。これは呆れてモノが言えないという感じのため息だ。
(やばい。殺される)
この場合は怒鳴り散らされたり、殴られるよりも恐ろしい精神的攻撃が来る前兆だ。
恐る恐る顔を上げるとドライアイスをドライアイスで周りを固めたような冷たい目で見下ろしていた。
「……いいご身分です事」
「その冷たい目で見んのやめてくれる!? 泣くぞ!」
たった一言の発言だが、あまりの冷たさに少しでも気を抜いたら大洪水を免れないくらい涙腺がゆるゆるになった。
唇をグッと噛み締め涙を堪えているとパタパタと忙しなく走る足音が響いた。
「兄ちゃん! 兄ちゃん!」
勢いよく部屋に入ってきたと思ったら布団の上に緑髪の青年がダイブしてくる。
年齢と身長に似合わない行動に内心呆れつつも彼の事を見る。高身長にタレ目がちの優しそうな目で女から好かれそうな甘いマスクの青年だ。
「兄ちゃん! やっと起きたっ! オレと遊んでよ〜!」
「え、めんどくさい」
この“めんどくさい”という一言で今度は緑髪の彼が目に涙を浮かべ布団の上で項垂れてしまった。こうなっては何を言っても聞く耳持たないから放っとくのが英断だ。
「煌舞、さっさと身支度整えてください。もう時間ですから」
青髪の彼も同じ事を思ったのか気にしてないみたいで淡々と告げる。
「わぁったよ。てか、お兄様と呼べ。俺を敬え」
「愚兄。駄兄(だけい)。バカ」
「うぉい!」
白髪の少年は浮かない気持ちでのそのそと起き上がり身支度を始めた。
× × ×
今は昔、明治維新が起こり日本という国が劇的に変化していっている時代。
人々は特に何も無い平凡な日々を過ごしていたが数百年前から妙な事件が起き始めていた。
その名も……
ーー鬼隠し。
それはその町で起こったとても不可解な事件。
被害者は真夜中から朝方にかけての町で突如跡形もなく、それはもう血の1滴も残さず消えてしまうというなんとも妙な事件だ。
これは2日に1回起こり、2人、多くて3人は行方不明になってしまう。
目撃者によると夜中に人間とは思えないほどの大きさの物体が通りかかった人間を喰らっていたと言っていたらしい。
そこから、神隠しのように人間を消す鬼とされ、鬼隠しと名付けられた。
そんな事件が何年も続いたため政府は鬼隠しを起こさないためにとある最強の警備隊を頼ることにした。
その名も『魁(さきがけ)隊(たい)』。
この魁隊の隊員がこの3人……と言いたいところだがこの3人は違って、魁隊は安倍晴明の末裔である安倍(あべの)飛龍(ひりゅう)を初めとする陰陽師やその他の剣や銃などの腕に自信がある者たち。
ちなみにネタバレするとこの3人は長男プラス双子であり、同時にこの事件の犯人である。
この3人は人間の形をした妖だ。完全に妖という訳ではなく妖と人間の混血と言った方がわかりやすいだろうか。
そして、1番面倒臭いのはこの3人、生きるためには定期的に魂を喰らわないとダメだという身体になってしまったのである。
それと、人間とは思えない大きさの化け物を見たという人はたぶん月の光かなんかで出来た影だろう。彼らは通常の人間の大きさだからそれは有り得ない。
それでは、3人の紹介を軽くしよう。
暁(あかつき)煌舞(こうぶ)。
兄弟の中でもずば抜けて強く、マイペースで自由な長男で妖狐。
白髪の髪で金色の瞳。妖術は炎。
暁(あかつき)蒼晴(そうせい)。
しっかり者の、長男より兄らしい次男で鬼。
青色の髪で銀色の瞳。妖術は水。
暁(あかつき)陽咲(ようさく)。
長男を慕っている明るく元気な三男で鬼。
緑色の髪で銀色の瞳。妖術は自然。
今の彼らには親はいない。それに生まれも誰も知らなければ幼少期の頃も誰もわかっていない。
そんな彼らを気味悪く思う人間もいるが、大概の人間は彼らの明るい性格や兄弟仲睦まじい様子を見て特に警戒することも無く寧ろ好いてくれる人間の方が多い。
彼ら自身初めの頃は人間を殺すことには抵抗はあったが、生きるためだと割り切っていくようになった。というか、心が妖に侵されていってしまってるためだいぶ人間を殺めることに慣れてきている。
だけど慣れていったものの蒼晴と陽咲は力をコントロールできずにいるのが難題だが、それでも煌舞のみの力で上手くやっていけている。
これはそんな彼らの覚悟と終わりの話だ。
最初のコメントを投稿しよう!