人間の知り合い

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人間の知り合い

今は昼の0時をまわった頃。 太陽が1番高い位置に上り真夏特有の暑さが街を包み込む。 煌舞は暑さのせいか珍しくお昼に起きた。大きく腕を上に伸ばし脱力するを数回繰り返す。 煌舞には仕事は無いためいつもは朝寝て夜起きるという不規則な生活をしている。それでもたまにお昼とか朝とかに起きる時もあり、そういう時は大概外に出て人と接している。 「眠っ……」 立ち上がり頭を掻きながら蒼晴が吊るしてくれたのであろうシワひとつない着物と袴をとる。 白色の着物を着て黄色い袴を履き薄い黄色の外套を羽織る。 それから自室から出るが家の中は不気味なくらい静まり返っている。たぶん双子は外に出ているのだろう。だが普段賑やかな分静かだと妙な不気味さを感じる。 「行くか」 煌舞も身支度を整え、草履を履き立て付けの悪い横扉をこじ開け外へと出た。 外に出ると夜とは違い活気づいた町がそこにあった。 「煌兄ちゃん! 久しぶり! 早く働けよ!」 「煌兄ちゃん! こんちわ! 早く働けよ!」 「なんだよそれ! そんなはしたない言葉誰から教わった!」 「「蒼兄ちゃん!」」 「あんにゃろ……」 煌舞は割と小さい子達から好かれる方。というか、小さい子達からしたら同じレベルに見えてるのだろうがとにかく懐かれやすい。その分よく馬鹿にされている。 今日もまた、小さい子達に軽く罵倒されて梅干しでも食べたかのような顔をしながら町の中へと入っていく。 町は多くの人で賑わい、物を売ってる者もいれば会話に花を咲かせているおば様方、女をたくさん引き連れている若者も…… (……って) 「陽咲じゃねぇか!」 「んえ? あ、兄ちゃん!」 煌舞の声に気がついたのか女の中心にいる陽咲はキラキラした目で煌舞の所へ駆け寄った。 緑色の浴衣をだらしなく着ていて、前が色っぽくはだけている。 女達はアヒルの子のようにそんな陽咲の少し後ろについてくる。 「この人が陽咲くんの言ってたお兄さん?」 「全然似てなーい!」 「陽咲くんよりも背ひくーいっ! 可愛いーっ」 女達は本人を前にして好き勝手言っている。 陽咲は兄を馬鹿にされているとはわかっていないのかニコニコと無邪気な笑みを浮かべ、じっと話を聞いている。 だが、馬鹿にされてる当の本人はわかってしまっているため目から血が滲むくらい恥ずかしさと悔しさが押し寄せている。 (くそアマ……お前ら、明日の夜覚えとけよ……) 「兄ちゃんもオレ達と遊ぼうよ!」 見た目は十代後半。精神年齢は三歳の陽咲が煌舞の手を取り言った。 「やだ。それに、いい加減取っかえ引っ変え女で遊ぶのやめろよ。この間連れてた女全然いねぇじゃねぇか」 「この間の子達はほとんど食べちゃったからさ。新しい子達と遊んでるんだ!」 「食べたって……あの、はい?」 ちなみに、煌舞は童貞である。 「あはは。兄ちゃん顔真っ赤」 「う、うっせえ!」 「兄ちゃんも仲間に入る? 楽しいよ?」 陽咲は舌舐めずりして妖艶な笑みを浮かべる。その姿はただの発情したオスのようだ。 煌舞は我が弟ながら恐ろしいと思い「じゃ、じゃあ」とたどたどしく挨拶をし逃げるようにその場から立ち去った。 煌舞がいなくなると陽咲の周りに先程の女達が群らがりまたハーレムの空間になる。 陽咲は近所でも有名な超がつくほどの遊び人だ。落とした女は星の数、女を取られた男も星の数と言われるほど。 普段精神年齢三歳の陽咲だが、こういう時ばかり見た目の歳に見合った、いや、年よりもいくつか上回る精神年齢になる。 「ーー今回の鬼隠しの件ですが……」 「ーーはい。僕も聞きました。三人が行方不明になったそうですね」 「ーー話が早い。流石蒼晴さん」 いくらか歩いていると聞き覚えのある声と名前を耳にし立ち止まる。 声の方を見ると蒼晴が蒼晴よりもひと回りかふた回り大きな男達二人と話していた。 話の内容は鬼隠しの事らしく蒼晴も真剣な面持ちで話を取り合っている。よくよく見れば蒼晴の服装も警察官のような服装で仕事中のようだ。 まぁ、鬼隠しの張本人がその様な話に取り合うのは不思議なことだが、これでも蒼晴はこの町のお偉いさん達にもいい意味で目をつけられるくらい賢い奴だ。 というのも、たまたま町のお偉いさんの話に首を突っ込んでしまいその案や考えが意外にもよかったため、こうして頼られるようになったのだ。 「あれ? 蒼晴さんの兄ちゃんじゃねぇか」 話してる途中で煌舞に気がついたひとりの男が声を上げた。 蒼晴は煌舞が来たと気がつくとまるで邪魔者が来たかのような目で煌舞を見ている。余程会いたくなかったのか口元も引きつらせている。 「なんでここにいるんですか? 永眠してればいいものを……」 「酷いっ! 遅くまで寝てると起こしてくるくせに!」 冗談なのか本気なのかわからない声色で言われ身体が身震いした。 昨夜、紅巴に言われた死の宣言もフラッシュバックし、一抹の不安を感じてくる。 「あんたを起こす時はご飯が食べたい時です。それに今から鬼隠しについて話し合うので邪魔だからとっとと消えてください」 「お前! 兄貴をなんだと思ってんだよ!?」 「餌をくれる道具」 ここまで自分の弟が冷血だとは思ってなかったため、悲しさから酸素が薄くなるのを感じ、嗚咽混じりの呼吸をしながら両目から溢れてくる水滴を拭った。 「ーーお? 誰かと思ったら暁の駄目兄貴じゃねぇか!」 煌舞が悲しみにうちひがれていると追い討ちをかけるかのようにひとりの男の罵声が飛んできた。 声の方向を向くとそこに居たのは黒髪の右目に眼帯をした黒色の瞳の男。 風貌は煌舞と同い年くらいだが、蒼晴と同じ立派な警察官のような服装を着ている。 彼の名前は安倍飛龍。安倍晴明の末裔(まつえい)であり、政府が特別に設けた鬼隠しの警備隊、『魁(さきがけ)隊(たい)』の若き隊長でもある。 煌舞達とも面識があり蒼晴と陽咲とは仲が良い。 「あー! おちびの飛龍ちゃんじゃないですかぁ? 相変わらず鬼隠しの警備でちゅか? 頑張ってくだちゃいね?」 煽るように煌舞が言うと分かりやすく飛龍の表情に苛立ちが滲む。 彼の身長は低くあまり背の高くない煌舞よりも若干低い。 「てめぇだって! ニートで弟に頼りっぱなしの駄目兄貴の癖によ!」 飛龍も言い返し2人はかなり近い距離で睨み合う。しばらく睨み合うと飛龍が先に顔を離した。 「それによ。お前獣くせぇぞ」 飛龍は急に真剣な声色に変わりその言葉に煌舞は内心ドキッとした。が、平然を装い次の言葉を待つ。 「あと、妖気が強く感じる。気をつけろよ」 「あ、おう……」 「ん? どうした?」 「い、いや! 心配してくれてありがとう」 流石は安倍晴明の末裔だけあり、気配を感じ取ることに関しては鋭い。だが、鈍感なのか煌舞を信じきっているのか忠告だけで終わった。 バレなかった事で安心したが嫌味ながらも飛龍は心配してくれてるらしくどこか罪悪感も感じている。 蒼晴も眉間にシワを寄せ俯いてしまっている。彼も彼なりに自分の犯してる事に罪悪感を多少なりとも感じていた。 「飛龍! 飛龍! 待ってよー」 慌ただしく走りながら飛龍の名を叫ぶ声がした。 その主はここまで来ると膝に手を付き荒い呼吸を整えている。 「あ? どした?」 「どしたじゃないよ! 置いてかないでって言ったのに!」 「そうだっけ?」 その人は顔を上げ涙目ながらに飛龍に訴える。 薄い桃色の髪を前髪だけ結っていて寝かすようにピンで止めている薄緑色の瞳の男。 服装は飛龍と同じ制服を着ていて身長は蒼晴より少し高いくらい。 彼の名前は御影(みかげ)優吉(ゆうきち)。魁隊の副隊長である。 チャラい感じの見た目からは考えられない程優しい性格で、陽咲同様見た目と性格にギャップがある人物。 「あ、煌舞と蒼晴もいたんだね。聞いてよ! 飛龍ってね、僕が鬼隠しについて聞きこみ調査したらふらぁってどっか行っちゃったんだよ!」 「そりゃ、ひでぇな! 一発ぶん殴ってやれ!」 いつもはいない優しいタイプの人間で煌舞は優吉を重宝している。そのため、わざとらしい演技で即座に優吉の味方につく。 優吉は大きく頷いて軽く飛龍の頭を叩いた。 「いでっ」 そこまで痛くはないと思うが大袈裟に痛がり頭をさする。 「そうだ。そろそろ魁隊の会議があるんだった」 飛龍に喝を入れて満足気の優吉が思い出したように声を上げた。 飛龍は面倒くさそうに叩かれた場所を撫でながらため息をひとつ吐く。 「あー。忘れてた。優吉、蒼晴行くぞ」 「はい!」 「うん!」 飛龍は顎で促しその後に続いて蒼晴と優吉がついて行った。 「なぁ! 俺は?」 部外者なのだが、仲間外れにされた気がして、煌舞が三人の背中に声をかけると三人は足を止め顔を見合わせた。 そして、何かを共有したのか一度頷き、優吉が口を開く。 「お家でゆっくりしててねっ」 「おう! それもそうだな! わかった」 優しげな言葉にこれ以上しつこく言うことも無く素直に聞き入れる。 優吉だからこそオブラートに包んで言ってくれたのだろうが、あの二人だったら邪魔だから来るなと言うところだったのだろう。 (優吉は善良の心で言ってくれたんだ。そうだよ。決してあいつらの心まで考えてはダメだ) 煌舞は深く考えないようにして足早に家の方へと向かった。
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