魁隊

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魁隊

「ーーそれでは、鬼隠しについての話し合いをする」 飛龍の宣言に魁隊の会議が始まろうとしている。 魁隊の本部はかなり広い造りとなっていて大きな机に何人かの隊員が胡座をかいて囲んでいる。 飛龍は全体を見渡せるような場所に座り、その右隣に優吉、左隣に蒼晴がいる。 ちなみに、蒼晴は魁隊の中隊長に値する人物でありかなり偉い人。陰陽師の様な術は使えないが剣の腕は魁隊トップクラスだ。飛龍はこんな小さな見た目だが剣も術も完璧であり、優吉も飛龍には劣るが戦力に十分過ぎる力を持っている。 「はい! 隊長!」 ひとりの青年が気持ちいいくらいしっかりとした口調と挙手をする。 「どうぞ」 飛龍の言葉で「はい!」と元気よく返事をし立ちあがる。 「関係があるかはわかりませんが、最近昼間でも鬼隠しのような神隠しが勃発してるとの事で」 「ほう」 「結論を言うとそれは誘拐事件らしく、町の人達はその事件の犯人が鬼隠しの犯人ではないかと」 「なるほどなぁ。調べてみる価値はありそうだ」 飛龍は何度か頷くと「座っていい」と告げ青年を座らせた。 普段だらけたような口調だがオンオフがしっかりしていて仕事の時は真面目な口調だ。 蒼晴はこの事件に興味が湧き思わず腕を組み考え込んだ。 (誘拐事件……か。僕達は絶対に犯人ではないですから、ここで犯人が鬼として捕まってくれれば有難いですね) 「蒼晴? 何か思い当たる節でもあるのか?」 横にいた飛龍が不思議そうに尋ね蒼晴はハッと我に返る。 周りの隊員達からの注目の的となった。 「あ、いえ。特にはありませんが……この事件、僕に任せて頂けないでしょうか?」 蒼晴からしたら咄嗟の言葉だった。 冷静沈着と思われる蒼晴だが考えてる時に話題を振られると流石に焦る。それでも、動揺を悟られずに平常を装いながら返せるのは長年の経験の賜物だろう。 だが。 (……はぁ、また面倒くさそうな仕事を受け入れてしまった……) という事を後々後悔するのも多々ある。 「わかった。蒼晴がそう言うならこの件は任せよう。異議のあるものは!」 飛龍の言葉にただでさえ静かなこの場がさらに張り詰めた空気になり、異議なしの意を示している。 「必ず犯人を捕まえ、鬼隠しの手がかりを掴んでみせます」 蒼晴が心臓部分の胸に手を当て上辺だけの意気込みで場が短い拍手に包まれる。 その後も鬼隠しについての手がかりは特になく、魁隊の会議は幕を閉じた。 蒼晴はいち早くその場から退場し、犯人探しへと勤しんだ。 飛龍は追うように蒼晴の背中を見守る。 すると、隣からふっと優吉が視界に入った。 「飛龍、心配なの?」 「まぁな。だけど、あいつなら大丈夫だろ」 「そうだね」 飛龍と優吉は親のような気持ちでもう一度出入口の扉を見る。 そこに、ひとりの魁隊の男が「隊長」と呼びかけ駆け寄ってくる。 そして、周りに聞こえないようにそっと耳打ちをして飛龍が頷くとどこかへ行った。 「何かあったの?」 男が居なくなったと同時に優吉が聞く。 「あぁ。たった今、誘拐犯らしき人物が間抜け面の白髪野郎を誘拐してるんだってよ」 苦笑を浮かべながら答える飛龍に優吉は目を丸くする。優吉の脳裏にはここに来る途中に会った白髪の男。煌舞の顔が過ぎった。 「それって……」 「おう。あいつを誘拐するなんざどうかしてるぜ」 優吉の言おうとしてる事がわかったのか、最後まで言わせずに先に話し力が抜けたようにゴロンと畳の床に仰向けで寝転がる。 (愚兄を持つ弟は大変だな。オレもお前も……) 飛龍は兄の形見である首にぶら下げた茶色い紐に赤色の石がついた首飾りを力強く握りしめた。 彼の兄も鬼隠しの被害にあった1人であり、彼は兄の復讐のために魁隊に自ら立候補して入ったのだ。 一方その頃。 蒼晴は驚愕していた。 誘拐犯を探そうといろんな人に聞き回っていてある程度わかってきた所で丁度誘拐犯を見つけることが出来た。 しかもーー。 「なぁなぁ。おっさーん! 付いてったら本当に菓子くれんの?」 「あぁ。取って置きのお菓子をあげるよぉ」 (なんでお前(煌舞)が誘拐されてるんですか!?) 今現在自分の兄が誘拐されそうになっているところだった。 しかもお菓子に釣られているようでひょこひょこと呑気に誘拐犯の後について行っている。前々から愚兄だとは思っていたが情けなく思えてくる。 だが、煌舞の事だ。簡単に死ぬことはないだろう。これも何かの運命だと思うことにして蒼晴はバレないように煌舞達のあとについて行った。 煌舞と誘拐犯は森の奥まで来るとひとつの古びた小屋のようなところに辿り着いた。 誘拐犯が扉を開くと中には何人かの人間が部屋の端っこにいた。人間のほとんどが白髪のお爺さん、お婆さんでみんな怯えているような助けを乞うような目で煌舞を見つめていた。 「ケッケッ。まんまと引っかかりやがって」 背後から小馬鹿にするような声が聞こえ何かがふりかかる気配がする。 煌舞は軽くそれを交わし、誘拐犯の方を向く。 どうやら誘拐犯は木の棒を振ったらしく、その手には木の棒が握られていた。 「菓子はくれねぇの?」 そのあまりにも余裕そうな様子に誘拐犯は少し怯んだがまた次の攻撃体勢に入った。 が、いくら攻撃しても煌舞にかすりすらしない。 彼は妖狐の力のせいなのか人間の姿でも身体能力は化け物並みで、集中さえしていれば銃の弾ですら避けれる程だ。 「くそっ……! なんで当たんねぇんだ!」 苦し紛れの誘拐犯の言葉に煌舞は不敵な笑みを浮かべる。 「そりゃ、勿論。種族が違うもんでねっ」 「はぁ!?」 誘拐犯は訳が分からず一瞬動きが止まった。 次の瞬間。 煌舞が誘拐犯の背後に回り懐から扇子を取り出し首の後ろを叩く。 叩かれた誘拐犯は糸が切れたあやつり人形のように膝が折れ前のめりに倒れた。 「はぁ……菓子貰えるって言ったからついてきたのに。なんもありゃしねぇじゃねぇか。久しぶりに甘いもんでも食べたかったのに」 どうやら煌舞は本気で菓子を貰えると思っていたらしく、とても不服そうだ。 「煌舞さん! ありがとう」 「助かりました!」 「いいってことよっ!」 捕まっていたお爺さん、お婆さんは煌舞にお礼を言い、小屋からゾロゾロと出て行った。 「あら? 甘い誘惑にまんまと騙されて来たのね。愚兄」 「なんでお前がいんだよ。いーちゃん」 捕まっていた人間の中にはなんと紅巴もいたらしく何食わぬ顔で煌舞に話しかけた。 「私は町の警備をしていたら怪しい人がいたからわざと捕まってやったのよ。わ・ざ・と!」 “わざと”という単語を強調しているあたり素で騙されたと言ってるようにしか聞こえなくなってくる。 「そうかよ」 「えぇ。ポンコツ煌舞とは違ってね」 「はいはい」 自分は騙されていたため人の事は言えず軽く流しとく。兎にも角にもみんな無事そうでよかったと内心ほっとしていた。 「煌舞! 大丈夫ですか……って、紅巴さん?」 「蒼晴くんっ! やだっ。どうしてここに?」 蒼晴の登場に紅巴の声が煌舞と話している時よりもワントーン上がり頬が微かに桃色に染まっている。その様は狛犬の化身でもなくただの憧れの好きな人を前にした乙女。 「僕はこの誘拐犯を捕まえるために来ました」 そう言いながら蒼晴は手際よく気絶している誘拐犯の腕に縄をかけた。 縄をかけ終わると丸太のように肩に担いだ。誘拐犯は成人男性なのだが、そのような人物を軽々肩に担げるのだから蒼晴も化け物なのだなとしみじみに思わせられる。 「紅巴さん。もし宜しければ神社までお送りしましょうか?」 「いいのよ! 気にしないで! それよりも、お仕事頑張って、ね?」 「はい。ありがとうございます」 完全に二人の世界に入ってしまっている彼らを煌舞は妬み僻み嫉みの気持ちを込めて口を尖らせながら見た。 「それじゃあ、僕は戻りますけど、くれぐれも知らない人にはついて行かないでくださいよ?」 「うんっ! わかったわ!」 「へーい」 オカンのような言葉に紅巴は元気よく返事をし、煌舞は面倒くさそうに返事をする。 そして、ヒーローのように颯爽と立ち去る蒼晴を見送った。 「そろそろ私も帰るわ。じゃあ、次会う時は肉片になってない事を祈るわ」 「温度差!」 表情や声のトーンが夏から一気に真冬のようになった紅巴にツッコミながらも煌舞はひとり帰っていく紅巴の姿を呆然と眺めていた。
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