新たな鬼隠し

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新たな鬼隠し

今日もまた人魂を食べる日になった。 もうすっかり日が暮れて辺りは暗い闇へと変わる。 陽咲は鼻歌交じりに昼間とは違う緑色の袴に白色の着物と白色の外套の格好をする。普段昼間は浴衣しか着ていないからもしものための身分隠しにでもなるだろうとの思っての選択だ。 全て着替え終わり鏡で身なりを何度か確認するとまだ寝てるであろう煌舞の部屋へと向かった。 部屋の襖を開くと予想通り煌舞はまだ寝ていた。今の時間は夜の20時半。 起こさなければ丸一日寝てそうなくらい目を覚ます気配がない。 「兄ちゃん。おーきーてー」 優しく揺さぶりながら起こそうとするがなかなか起きない。 こういう時蒼晴が居てくれたら実力行使で起こしてくれるが、生憎先日の誘拐事件の件で忙しいのかあれきり帰ってこない。 (どうしよ……蒼晴みたいに強く出来たらいいけど……可哀想だしなぁ……あ、そうだ!) 陽咲は何か思いついた感じで拳を手のひらに当て、両手を突き出した。すると、突き出した両手からスルスルと緑色のツルが四本伸びてくる。 そのツルは煌舞の四股を掴み異なる方向へと引っ張る。それはまるで日本の処刑法でもある牛裂きの刑のように。 「いだいいだいいだいいだい!!!」 「やっと起きたっ! おはよう! 兄ちゃん!」 「やっと起きたじゃねぇよ!? 殺す気か!」 煌舞の悲痛な叫びを聞き起きた事を確認すると陽咲はツルを両手の中に収めた。 煌舞はこれなら蒼晴に殴られて起こされた方がマシだと心の底から思った。 「ったくよぉ……お前は狂気かよ! お前みたいな奴のことをクレイジーって言うらしいぜ」 文句を言いながら蒼晴がいないため無造作に置かれた着物と袴をとりシワを取るようにはたく。 「えへへっ。兄ちゃんがなかなか起きないから」 「起きないからって日本の処刑を俺ですんな!」 ひたすらにバサバサやったがシワが取れず仕方なく押し入れから他の衣服を取り出す。白色にユリの花の模様が入った浴衣だ。 「それによ、今は少しだからコントロール出来たからいいが妖術を使いすぎて暴走したら殺されるぞ。人間と俺に」 「大丈夫だよ! もうそんなヘマはしないから!」 「お前のその自信はどこからくるのやら」 「えへへ」 煌舞は呆れたようにため息を吐き浴衣を着る。それから、顔を洗い身支度をきちんと整えて二人は夜の町の中へと入っていった。 いつもは外に出るとチラホラ人間はいるが今日は一段と人間が少なく、というか誰もいず二人は宛もなくさまよっていた。 「どうしたんだろ?」 陽咲ですら異変に感じたのかキョロキョロと周りを見ながら独り言なのか煌舞に言ってるのかわからない声量で呟く。 「さぁ? 町で夜家に出るなって決まりが出来たわけでもないしな」 煌舞は答えるように言い更に歩みを進めていると少し先に二人の影が見えた。 煌舞と陽咲は餌が取れる安心感で足早に対象の人物に近づく。 煌舞は妖狐になり密かに右手で火の玉を出した。 そして、前に突き出そうとしたら、煌舞達に気づいたのか急に獲物が立ち止まり振り返る。 慌てて炎を隠し、耳と尻尾も瞬時に収める。 (やばい……バレたかっ!?) 二人ともそんな思いで身構えると、目の前の人物は特に驚いた様子もなく平然とした表情を浮かべていた。 しかも、その二人は見覚えのある顔。 「ひ、飛龍さんと優吉さん?」 驚きつつも陽咲はその人物の名前を言う。 「あ? なんだ。陽咲と愚兄野郎じゃねぇか」 「こんな所に居たら危ないよ?」 嫌味ったらしい口調と優しい口調で本人達だと言うことがわかった。 丁度巡回でもしていたところだろうか。 こういう鉢合わせも珍しくはないが、いざ起こると焦る。 それに、今は大切な友人を殺しそうになったため煌舞の心臓は激しく脈を打っている。 「危ないってなんかあったのか?」 優吉の言うことが人がいない原因なのではないかと思い平常心を装いながら煌舞は聞いた。 「まぁな。ちょっといろいろあってな」 言いたくないのか飛龍は言葉を濁す。 飛龍は何か嫌な事でも思い出したのか暗い中でも変な汗が頬を伝っているのが見えた。 「よかったら聞かせてくれないか?」 煌舞が聞くと飛龍は軽く腕で汗を拭い首を振った。 「嫌だ。お前に話したところで何もなんねぇだろ」 「わからねぇぞ? その件がパパッと解決しちゃうかもよ?」 粘り強く煌舞は話してくれることを促すと、飛龍は根負けして「わかった」と返事をした。 「鬼隠しだ」 「鬼隠し?」 「鬼隠しってあのやつ?」 意外な言葉にそれまで黙っていた陽咲も聞き返した。飛龍は軽く頷き話を続けた。 「あぁ。今日もまた鬼隠しが起こったらしい」 煌舞と陽咲は頭の上にハテナをたくさん浮かべていた。今日は今さっき家から出てきたから鬼隠しが起こるはずがない。 「ただ、今までとはかなり違くてな」 「違うって何が?」 陽咲は息を飲み急かすようにオウム返しをする。 「今回の鬼隠しは死体がちゃんとあったんだ。しかも、頭や手足がバラバラでな」 現場を見たのであろう飛龍は顔色が真っ青で口元を抑えた。 「本当にびっくりしたよ。人間じゃなくて人形だって疑いたくなったもん」 優吉は平気そうなのかそこまで動揺の色は見えない。 鬼隠し、死体、バラバラ。 このワードは煌舞と陽咲をあるひとつの可能性へと答えを導き出そうとしていた。 それと同時に昔に双子が鬼になった時の光景も思い出していた。 辺り一面に赤黒い血の海で人間なのかもわからないほどぐしゃぐしゃになってしまったソレは至る所にたくさん転がっており、その数は両手足に収まる数ではない。 そんな残酷な所でも二体の暴走している鬼はご機嫌に笑い必要以上に町を破壊し続けた。 この時、妖狐の煌舞もひとりでは止めきれず立ち往生してしまい結局狛犬達に助けてもらい止めることが出来た。 もし、飛龍の言っていたモノがそんな悪夢のような過去と似たような状況なら考えられることはひとつしかない。 ((蒼晴っ!)) 二人は同じことを考えていてほぼ同時に顔を見合せた。 「飛龍、優吉! ありがとな 」 「じゃあ、またね!」 「へ? あ、おう?」 「ん? じゃあね?」 急な別れに飛龍と優吉はボケっとした面持ちで返事を返す。 煌舞と陽咲はそんな二人をそこに残し猛ダッシュで蒼晴のいるである場所へと向かった。
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