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覚悟
「ーーウガアアア!!」
「くっ……」
陽咲の反撃が始まり、鬼と化した陽咲は本物の鬼相手に対等で戦えている。いや、寧ろ、優勢で戦っている。
獣のような声を上げながら手からつるを出して攻撃したり、相手は氷を出す事が出来るらしいがその攻撃も避けながら風を吹き荒らさせ、その風の中に鋭い葉を混じらせて攻撃したりと、妖術を使いまくっている。
そのためか、理性は完全に失われ、もうそこに居るのは陽咲ではなく、陽咲の形をしたただの化け物になってしまっている。
煌舞は止めたい気持ちもあるのだが、鬼になってしまった陽咲への恐怖心と、深い傷の痛さで、動けないでいる。ただただ、塀に寄りかかって見てるしかできない。
(止めないと……人に見られたら……おしまいだ……)
幸い家の中の人は怖さで見ることも出来ないでいるためまだ誰にも見られていない。
だが、見られるのも時間の問題だ。
(動け……俺の体動け!!)
『ーーこれだから、人間好きの妖怪は』
『ーーなんで、こいつが三大妖怪に入ったんだろうね?』
『ーーいつも人間に化けて気持ちが悪い』
『ーーそれに、人間並みに弱いしな』
(やめろ。うるさいうるさいうるさいうるさい!!)
頭の中に直接語り掛けるような過去に言われた言葉が何度も何度も流れる。
それを塞ぐように耳を塞いで顔を膝に埋めた。
「ーーったく、何やってるのよ。愚兄」
「ーーこんなのにやられるなんて貴方らしくないですよ〜?」
二人の少女の声がして、顔を上げると、そこに居たのは狛犬の二人だった。
その途端光が放ち、陽咲が意識が抜けたかのように倒れた。
「んん〜? なんじゃ? 神の使いがお主らの味方かえ?」
鬼は、こくりと首を傾げ、口元に着いている血を長い舌で拭った。
「そうですよ〜。今回は貴方に構ってる暇がないので、見逃しますけど〜」
「次はないと思いなさい」
(な、なんだ。こいつら知り合い、なのか?)
煌舞は顔を上げ、狛犬達と鬼を交互に見る。
鬼は相変わらず人の良さそうな顔でチラッとこちらを見て目が合うと睨むように眉をひそめ、すぐにまた表情を戻した。
「今回はこのくらいにしとくのじゃ。そろそろ戻らないと怒られてしまうからのお。それじゃ、バイバイじゃよ」
軽く手を振り屋根を飛び越えながら闇の奥深くへと消えていった。
(助かった……のか?)
とてつもない疲労感で力が抜け指先すら動かせない。
そんな煌舞に紅巴が近寄り、葵巴も少し遠くで倒れている陽咲を抱えながら寄ってきた。
「ありがとな……その、助けてくれて……」
おずおずとお礼を言うと、パンっと言う破裂音のような音と共に時間差で右頬に痛みを感じた。
視線だけ紅巴の方を見ると、紅巴が叩いたのか右手が平手打ちした状態で止まっている。
「貴方……何考えてるのよ……」
「え……?」
いつものような蔑む声色とは違い、低く怒りを含んだ声色で紅巴はキッと煌舞を睨み胸ぐらを掴み激しく揺らした。
何が起こってるのかわからない煌舞は呆然としてなすがままになっている。
「なんで本気を出さなかったの! 貴方なら、絶対勝てたはずよ! あんな奴! まだ人間に好かれてたい!? あんな仕打ちを受けたのに何呑気にそんな事考えてるのよ! 兄弟と赤の他人、どっちが大切なのよ! また弟達を苦しめたいの!? また弟達を殺したいの!?」
紅巴の悲鳴のような説教で彼女自身も言い切ったあとは呼吸を荒くしている。それに、目には涙を溜めていた。
「い、いーちゃん……」
「紅巴、シーっですよ〜?」
葵巴の優しい声に紅巴はハッと我に返り、煌舞の胸ぐらから手を離した。
それから、「ごめんなさいね」と言い、早足でどこかへ行ってしまった。
「煌舞〜。あれは紅巴なりのお節介なので、許してやってくださいね〜」
葵巴はそう言いながらしゃがんでる煌舞の足元に陽咲を寝かして置いた。
「わかってる。俺は甘かった。折角お前らから貰った宝を危うく手放すところだった。欲張るもんじゃねぇな」
「わかってくれたならよかったです〜。貴方ならまだ間に合いますよ〜。手遅れにならないうちに宝の欠片を取り戻して来た方がいいですよ〜」
「おう。わかった」
煌舞はよろける足で立ち上がろうとしたが、深手を負っているためすぐに崩れてしまう。
「くそっ……」
「少しだけじっとしててください〜」
葵巴は煌舞の前髪をかきあげ、額に優しく接吻した。
急な事で煌舞は目を丸くしてボケっとしてしまう。
「へ?」
「回復のおまじないです〜。これで、動けるようになりますよ〜それじゃあ〜」
こうして、葵巴もいなくなり、煌舞はおもむろに立ち上がってみた。
さっきよりも断然身体が軽くなり、傷口も塞がっている。
「すげぇ……狛犬のパワー」
それから、陽咲を背負い走り出した。
(狛犬達の言う通りだ。俺はわがまま過ぎたんだ。待ってろよ。蒼晴。兄ちゃんが今助けに行ってやる)
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