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ーー陽咲が鬼になる前で煌舞が鬼と戦っている同時刻。
蒼晴は女の鬼と激戦をくり広げているが、女の鬼も本気を出してないようで全く決着がつかない。
(殺すんなら殺す。死ぬんなら死ぬ。早くしてもらいたいものですけど……)
蒼晴は人間の状態のまま剣だけでどうにか対応しているが、体力的にもそろそろ疲れてきた。
「あははっ! 楽しいねぇ! 楽しいねぇ!!」
女の鬼は攻撃しながらも楽しそうに笑っていて、まるで、小さい子が大人にじゃれているような感じだ。
「僕は微塵も楽しくないですけど」
「冷たいなぁ! もーっ!」
女の鬼はわざとらしく頬を膨らませたかと思ったら金棒を振り上げ、蒼晴が剣で受け止めた瞬間電流が身体の中を走った。
「うっ……!」
すぐさま離れたが身体がビリビリしていて思わず刀を地面に落としてしまった。
電流のせいか動かしても動いてる気がしない。
(雷……ですか……麻痺してるから、今斬られても痛みは感じなさそうですね)
「ふふふっ。楽しかったけど、もう終わりにさせてもらうね!」
蒼晴が自分の手を見ながら何度か動かしているとこっちに向かってくる足音がして顔を上げた。
女の鬼が目の前まで迫ってきて、また金棒を振りかざされそうになっている。
(間に合わない……)
一か八かで落ちた刀を拾おうとしゃがんだ。
ーーその時。
蒼晴を庇うように誰かが立ちはだかり、鉄がぶつかり合う音がして、鬼がまた離れた。
「はぁ……はぁ……間に合ってよかった……」
(その声……)
「飛龍さん……?」
蒼晴に背を向けているその人物に声をかけると、その人物は蒼晴の方を向いて、ニッと笑みを浮かべた。
「おう! よく頑張ったな」
その言葉と笑顔に安心したのか、心に暖かいものが込み上げてくる。
(あれ……? 僕はなんで、泣いてるんですか……?)
拭っても拭っても涙が次々と溢れてくる。
蒼晴がひたすら涙を拭っていると頭の上に優しく飛龍の手が乗せられた。
「まだ終わりじゃない。もう少しだけ耐えてくれ」
「飛龍さん……はい!」
「あはは! 次から次へと人間が増えてくる! 私の餌がたっくさん! きゃはははは!!」
女の鬼が迫ってきて、蒼晴と飛龍は剣を構えた。
「俺の指示があるまでは動くな。絶対にな」
「はい!」
女の鬼がどんどん迫ってくる。
それでも、飛龍は合図を出しそうにない。
(もう、かなりの距離です。でも、飛龍さんには何か作があるのかもしれません)
蒼晴は恐怖を押し殺して飛龍を信じ、その場で剣を構え続けた。
ーーパァン。パァン!
2発の銃声が聞こえ、女の鬼が足を止め、膝をついて前のめりで倒れた。
「ヒーローは遅れて登場ってね」
民家の屋根の上には月明かりに照らされた優吉の姿がある。
ピストルを持っているため、撃ったのは優吉なのだろう。
「ナイスタイミングだ! よくやったな! 優吉!」
優吉が屋根から塀、塀から地面と降りてくると飛龍と息ピッタリにハイタッチをした。
「蒼晴もいえーいっ!」
優吉に促され、恐る恐る蒼晴も優吉と飛龍とハイタッチを交わし、鬼の方を見た。
頭と胸を撃たれたのか頭と胸からは血が流れ落ちビクともしない。
「びっくりするくらいあっさりと殺られましたね」
「そうだな。まだ生きてんじゃねぇの?」
飛龍は自身の刀で軽くつついて見たが、やはり動かない。
「ーーありゃりゃ? これじゃあ、もう金熊童子は使い物にならないのぉ」
「誰だ!?」
屋根から声がし、一斉に視線を向けるがもうその時には誰もいなくなっていた。
暗闇だからというのもあるだろうが、ほんの一瞬で影も残さず消え去るのは人間の出せる技ではない。
「金熊童子って……確か、酒呑童子の配下のひとりですよね?」
「そうだな。こいつが金熊童子っつーことは、酒呑童子もいるってことなのか?」
蒼晴と飛龍は金熊童子と呼ばれた女の鬼をじっと見ながら考え込む。
「ーーそういう事になるわね」
「今度は誰だよ!」
思考をめぐらせている中、次は割と近くで声が聞こえて飛龍が苛立ちを隠さずにぶっきらぼうに聞き返し視線を向けた。
「あら? そんな事言っていいのかしら? 飛龍?」
「おま……紅巴か? なんでここに?」
飛龍は目を大きくして紅巴を凝視した。
蒼晴はそんな二人を交互に見て優吉にそっと尋ねた。
「飛龍さんと紅巴さんはお友達なのですか?」
「うん。蒼晴ももしかして友達かなんか?」
「僕は……うーん……知り合いというか、友達というか……微妙ですね」
蒼晴自身友達と言いたいところだが、よく話す機会があっても紅巴は神様の使いだ。軽々しく友達というのも恐れ多い気がして言葉を濁すしか無かった。
だが、そんな気持ちまで読み取れなかった紅巴は蒼晴の言葉だけが聞こえてしまい固まったまま動かなくなってしまった。
それを見て飛龍は面白そうに紅巴を指差して笑いとばす。
「振られてやんのーっ! あっはは!」
「こら。飛龍。ダメだよ? 女の子をいじめちゃ」
「そうですよ。女の子をいじめるとモテませんよ?」
蒼晴と優吉に軽く注意されるも飛龍は辞めないため、真っ赤に顔を染めた紅巴が飛龍に手をかざすと妖術が発動して家の塀に叩きつけるように吹っ飛ばされた。
「ぐえっ!」
潰されたカエルのような声を上げ塀にそりながらズルズルとしゃがみうつ伏せになるように倒れる。
「まぁ、あのバカはほっといて、紅巴ちゃんどうしたの?」
優吉が一瞬だけ目線を飛龍にやると、紅巴に戻して言った。
紅巴も蔑むような目線を動かない飛龍にやると優吉の方に戻す。
「少しだけ、貴方達に話したいことがあるの」
「話したいこと?」
「ちょっと待ってね。もうすぐでもうひとりのバカと陽咲くんが来るから」
蒼晴と優吉はお互い顔を見合わせて小首を傾げ、蒼晴は顎に手を当てて考える姿勢をとった。
(話したいこと……この鬼の事でしょうか? それと、飛龍さんも優吉さんも狛犬である紅巴さんと仲が良いなんて陰陽師としての実力も伊達じゃないんですね)
なんて事を失礼ながらも思っていた。
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