総理大臣の願い

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 いよいよ神田官房長官の記者会見から十八時間、内閣総理大臣の緊急重大発表の時間が迫った。  4月1日正午、快晴。  日本中がしんと静まり返った。全国の老若男女が微かな期待と大いなる不安の中、テレビ、ラジオ、スマホ、国内津々浦々のストリートビジョンの前に陣取った。      正に日本列島が総理大臣の会見一色になったのである。  会見上にゆっくりと現れた是川金造は集まった大勢の記者に、普段通り気さくに「よっ」と片手を上げて壇上に上がった。テレビ画面に映る是川金造はいつもと何ら変わらない表情だった。朴訥さと鋭さの両方を併せ持つ日本の現総理大臣、是川金造。七十三歳。    是川金造はすでに現在、総理大臣職三期目である。彼は「日本国民のになる」が口癖で近年では珍しい質実剛健の、国民からの圧倒的な支持を持つ内閣総理大臣だ。是川はマイクを少しカタカタと調整し真正面を向いて、徐に会見を始めた。 「えー、国民の皆様ご機嫌如何でしょうか。内閣総理大臣の是川金造でございます。本日は皆様のお一人お一人のご事情お有りの中、えーこのように急な会見にお付き合い頂き誠に有難うございます。本日はある重大な御報告と、政府を代表として今後の日本人のに対する声明を述べさせて頂きます」  是川の一声はとても穏やかなもので、漠然とした不安を抱いていた国民は、予想が良い方に裏切られたようでホッと胸をなで下ろしたが「日本人の新しい生活」というワードに一抹の不安を抱いた。  一ニ分の前置きの後、声明文がいよいよ読み上げられる。  国全体が固唾をのんだ。  是川金造は軽い咳払いした。  コホン 「では読み上げます。声明文──」  この声明文によって、日本人の生活は大きく変貌する事となる。
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