総理大臣の願い

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 ✶  声明文    近年、東京都特別区の小笠原諸島南東に海底火山の隆起による新しい島が出現しました。島は現在、面積10平方キロメートルの大きさに成長しています。すでに火山活動は沈静化して島への上陸が可能になり、各専門の学者らによる一年半に及ぶ地質調査の結果が有識者会議で発表されました。調査結果の内容は驚くべきものでした。 「天照(あまてらす)(じま)」と名付けられたこの新しい島に於いて、世界的に貴重な天然資源の存在が明らかになったのです。    それは幾種かの稀有金属の発見であります。レアメタル始め、金、銀等、直近では希少鉱石であるダイヤモンドの発見にも至りました。又、地層専門分野の学者による人工的地震探査により油田の存在も明らかになった次第で有ります。  然るに我が国は埋没量世界一の天然資源国に踊り出る事と相成りました。すでに水面下では世界各国との輸出契約も始まり、早くも多額のデポジット(保証金)を受けております。よって国民の生活も何点か、本日を境に大きく変貌する事と成りました。  一点目は、国民の皆様に今後生涯に渡り給付金を付与する事と致します。経済学者による算定では一人に付き毎年3000万円の現金の付与が可能であるという事ではありますが、ビッグコンピューターを持ってしても本年度の支給におきましては暫くの時間を要するため、一時金を4月10日より支給する事にしました。  一時金の金額は一人に付き1000万円です。尚、現時点で現金を必要としている方におかれましてはこの会見が終わり次第、ネットでの簡単な手続きで上限300万円の前払いが可能であります。  二点目は、現時点より国民の三大義務である勤労の義務を解く事とします。それによる人材不足はワークロボットを活用する事になりますが…… …… ……云々             ✶  人々の歓喜、驚嘆の中、バラ色の日本の未来へ向けた総理大臣の声明文の読み上げは終わり、日本人の新しい生活はスタートしたのだ。    早速、巷では、 「男やもめの○○さん(68)は、アングリと開いたままの口を閉じるのに病院に担ぎ込まれました」などと、冗談のようなネットニュースが流れたり、お祭り騒ぎのストリートビジョン周辺の様子を映した。    そして、即座に大勢の人々がスマホで前払金の支給手続きをした。それはまるでATMで操作するように簡単に速やかに、一時金の300万円は口座に振り込まれた。  @☓☓☓ 300万円ゲット!!    何れにせよ、日本国民の豊かな生活は内閣総理大臣によって4月1日正午過ぎ、確約されたのである。  
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