総理大臣の願い

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 202☓年4月8日  是川金造の一世一代の声明から一週間が経った。国民は金銭の心配と労働から解放された幸福を心底味わっていた。街は300万円を懐にバラ色の人生を早速謳歌しようとする人々で溢れ返った。全国に配置されていた多機能を搭載したサービスロボットは、人々の人生の謳歌にあらゆる面で対応した。  是川金造の「国民を笑顔に」の政治家としての信条はここに最頂点に達したのである。  コンコン  総理大臣執務室にノックの音がしてドアが開いた。その顔を見て総理は困惑した。 「おいどうした。家で家族と一緒に過ごせと言っておいたはずだが」  執務室に入ってきたのは是川の盟友、神田官房長官であった。 「貴方と一緒に居たくてね」 「馬鹿な奴だな、俺なんかと」  是川は神田を見て呆れたように笑った。 「国民にあんな大法螺(おおぼら)を吹いたのですから私と貴方は一蓮托生ですよ」 「ハハハまあいい。 ところでどうだった俺の大芝居は」 「いやいや貴方は大した役者だ。 知らなかったらまんまと騙されるとこです」 「なあ、神田どうだろう、国民は笑顔になったと思うか」 「当然です。国民は間違いなく笑顔になりました」 「そうか、それは何よりだ」
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