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私たちの部屋は、道路側から二軒目の一階。当時流行っていたピンポンダッシュをするには、ちょっと難しい距離がある。
「あれ? おかしいな。誰もいない」
祖母がそう言ってドアを閉めた。そして、すぐにまた、コンコンコン。
咄嗟にドアを開ける。誰も、いない。
私たちは箸をおいて、玄関周りに集まった。
コンコンコン
ドアを開けるが、誰もいない。
「なんだこれ」
「どういうこと?」
それからしばらくは、静かになった。
風呂から出て午後九時になる前。再び誰かが玄関のドアをノックした。
コンコンコン。
『かあさ~ん! わたし! 帰ってきたから、開けて!』
四人「!?!?」
兄がドアに駆け寄って鍵を開け、全開した。が、やはり誰もいない。
兄「今、確かにお母さんの声がしてたよな?」
私「聞こえた。お母さんの声だった」
妹「私もはっきりと聞こえた」
祖母「うん、私もはっきりと聞こえたよ。かあさん、開けてって言ってたよな?」
見つめ合う四人。狭い玄関で、しばらく動けない。
兄「また、閉めてみる?」
妹「そうだね。また聞こえるかもしれないし」
私「お母さん、死んでないよね? 自殺したんじゃ……」
祖母「死んでなんかないよ! ちゃんと生きてるよ! 良くなるまではとにかく田舎でぼんやりさせておくのが一番の薬だって、お医者さんに言われてるんだから! 幼いあんたたちを置いて死ぬような子じゃないよ!」
私「だったら、今すぐ生きてるかどうか、確認したほうが良いんじゃない? 電話かけてよ!」
兄「お前、よくもそんなこと平然と言うよな? 死んでたら、向こうから電話かけてくるべや」
妹「そうだよ。真っ先におばあちゃんに電話がかかってくるよ」
祖母「そうだよ。心配いらないから。あの子の生霊だとしても、生きてるっている合図だよ」
とにかく生きている。そう主張する祖母の剣幕と、不吉なことばっかり言うとぶっ飛ばすぞという威嚇の視線を送る兄と妹に気圧され、私は黙ることにした。
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