0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
私の夫は、肌が汚い。
黒ずんだ肌に、ニキビがそこらじゅうに出来ている。
また、油ものが大好物なので、顔は常にテカテカと、過剰に分泌された油分で光っている。ゴキかよ。
大学生の時から一人暮らしをしていた夫は、全く自炊をせず、ほぼ毎日カップ麺か、コンビニ弁当を食べていたらしい。もしくは、外食――
お湯を沸かすことも出来なかった夫は、それでも袋ラーメンを作れるようになったのは、彼なりに進歩しているのだ。
「野菜とか、全然食べなかったの?」
「うーん…あ!よくラーメンのネギを大盛りにしてたよ!」
という体たらく。
そんなもの、野菜を食べたという内に入らない。
また、飲み物と言えば、甘い炭酸飲料ばかり飲んでいる。それか、砂糖たっぷりのミルクティーが好物だ。女子か。
そんな食生活をしていたら、そりゃニキビも出来放題だわ…
私は、半ば呆れていた。
夫のあまりにいい加減な生活っぷりに、愛も冷めるというものだ。
そんな折、夫の実家で、夫の高校生時代の写真を見せてもらった。
バスケットボール部の部長をしていたという夫は、4番のユニフォームを着て笑っていた。
そこには、見たことのないイケメンが写っていた。顔のパーツは夫なのだが、しかし、ニキビ1つない美肌をしていた。
そして、今なっては見る影もないデブの夫とは、全く違うスリムな男の子がそこには居た。
肌ひとつで、体型ひとつで、こんなにも人は変わるのかと、私は驚いた。
そして私は、人生で2回目の恋に落ちた。
――もう一度、
この人に一目会いたい。――
そこから、私の夫改造計画はスタートしたのだった。
まず、飲み物を基本的に水に変えさせた。糖分の塊のようなドリンクなどもってのほかだ。
しかし、水だけだと辛いので、お茶や、ノンシュガーの炭酸水などは飲んでもいいことにした。
そして、お昼ご飯は外食やコンビニ弁当をやめさせ、私が毎日お弁当を作るようにした。お弁当には、タンパク質やビタミン、食物繊維を多く含むものをおかずにした。
「だし巻き、美味しいよ。いつもありがとう。」
「ほうれん草のおひたし、好きだなぁ。また入れてくれる?」
今までサボっていたお弁当を毎日作る私に、夫は毎日お弁当の感想とお礼を言うようになった。
晩御飯も、生野菜がキライな夫のために、煮物にしたり、火を通した料理を作り、なんとか野菜を食べさせた。
「ん!このトンカツめっちゃ美味しい!」
「ふふーん、それはね、実はオーブンで焼いたやつなんだよ!」
油で揚げると、油分もカロリーもすごいことになるので、揚げ物が好きな夫のために色々と工夫を凝らした。
そして、お風呂上がりには、一緒にスキンケアを入念に行った。もちろん、夫はメンズ用のものを使う。
「今日ね、帰り道で可愛い猫を見たよ。」
「へぇー、いいなぁ。どんな猫だった?」
スキンケアをお互いにしながら、なんとなく会話がはずむ。
一緒に行動する事が増えて、自然と夫婦のデートの回数も増えていった。
そんな生活を1年ほど続けた結果、私は、あの写真で見た理想のイケメンを手に入れた。
「最近、キレイになった?」
ある日、そう夫が私に尋ねた。
「そうかな?」
「うん。スタイルもよくなったし、何より、肌がすっごく綺麗だよ。」
そっか、私も夫と同じ生活を送っていたから、結果的にダイエットにもなったし、肌もキレイになったのか…
「なんだか、また恋に落ちちゃいそうだよ。」
夫は、そう照れながら呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!