至福の時まであと5分

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ピンポーン 「!!」  突然鳴ったドアホンにびっくりして、本を落としそうになった。適当なしおりを挟んで、ドアホンに向かう。 「げっ! お義母さま……」  時計を見ると、時刻は午後1時を過ぎていた。かけ直しますと言っていたのをすっかり忘れていた。  ピンポーン 「あっちゃん、いないのー?」  ドアホンに続いて声までかけてくる。まだ耳は遠くないんで1回で聞こえてます! なかなか出ないのは、手が離せないからです! と言いたい気持ちを押し込め、ドアホンの通話ボタンを押す。 「はーい」  努めて明るい声で出る。 「こんにちは、あっちゃん。田舎から桃送って来たから、お裾分け持ってきたよー」  旦那の実家は、自転車で10分程度の近さ。アポ無し来訪もお手の物。 「わざわざすみません」  返事をしてから、ハッとする。  テーブルの上には、食べ終わった容器と箸がそのまんま!  お義母さまが上がる確率は、3回に1回。これまで良き嫁、良き母の皮を被ってきたのに、ここでしくじる訳にはいかない。 「ちょ、ちょっとお待ちくださいねー」  空容器をゴミ箱、食器を流しに放り込む。うどんの汁があちこちに飛んだ汚いテーブルを雑に拭く。よくこんな汚いテーブルで読書してたなと思っても、後の祭り。  あまりお義母さまを待たせる訳にはいかず、いろいろ後回しにして玄関に走る。  大丈夫! 今日はすぐ帰ってくれる!  祈るような気持ちでドアを開く。  被っていた皮が剥がれるまで、あと5分。
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