249人が本棚に入れています
本棚に追加
「兄さんのこと、気になるか?」
「え……?」
「俺より兄さんを選んだ時があったろ」
「ああ、あのときは……」
甚八さんを意識してしまったから、だなんて言えない。口ごもっていると、甚八さんは残っていたコーヒーを飲み干す。
「やっぱりいい。聞きたくない」
「甚八さん……」
その伏せられた顔から覗く耳がほんのり赤くて、私もまたつられて頬が熱くなる。慌てて私もコーヒーを飲み干すと、甚八さんはさっと立ち上がった。
「あとな、悪いがまだある」
「え……!」
「返品不可だ。受け取れ」
私はそんな彼の気持ちが愛しくなって、思いっきり緩んでしまった頬を隠すように大きすぎる花束を受け取った。
「おっもっ!」
思ったよりずっしりと重たいそれは、彼の愛の印。そんなことを思っていると、不意に手元が軽くなる。甚八さんが満足そうな笑みを浮かべて、それを奪い取ったのだ。
「まだあるって言ったろ」
「え……っ!」
そうして彼はさっさと歩き出してしまう。
「ま、待ってくださいよ~っ!」
私は急いで彼の後ろを追いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!