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「でも、今やはり改めて思った。明日をお前と生きたい。……永遠に」
甚八さんは、袖のなかに手を入れると、すっと箱を差し出した。開かれた先には、キラキラ輝くダイヤのリング。
「……っ!」
言葉に詰まっていると、甚八さんはもごもごと口を動かした。
「き、気に入らなかったからって、返されても困るんだ。前に言ったろ、俺は……」
「そうじゃなくて……」
私はふふっと笑った。
「こんなにゴージャスでラグジュアリーでブルジョアジーな告白を受けているのに、なんか甚八さんが甚八さんすぎて……」
「……バカにしてるのか? 確かに、正装といえば和装をしてしまうし、ヘリコプターで告白なんてのは俺の意見ではないが……」
私がくくっと笑うと、甚八さんはふいっと顔をそらせてしまう。その照れた顔が可愛くて、私は衝動的に彼の頬に口づけた。
「誰の意見でこうなったのかは聞きませんけど……」
私はふう、と息を吐いてから、すうっと吸い込んだ。甚八さんの目をしっかり見据えると、その眼鏡の奥の瞳に私が映る。
「もう、居候でも家政婦でもなく、甚八さんの傍にいていいんですね」
「……お前、そんなことを思っていたのか。俺の中では、とっくに特別な存在で……」
甚八さんははっとするとまたごにょごにょと口ごもる。私は笑いながら甚八さんの顔を覗く。
「私も、ずっと前から甚八さんのこと、特別な存在でした」
へへっと照れ笑いすると、甚八さんが呟いた。
「なぁ、えっと……そのー、例え、特別な存在になったとしてもだ。……部屋の掃除、してくれるか?」
私は頷いた。
「じゃあ、明日からは一緒に掃除しましょう。料理も、一緒にしましょう。だって、これからずっと、一緒にいるんでしょ?」
そう言うと、視界が急に紺色に包まれる。優しい肌触りの彼の着物は、大好きな匂いがして。それに包まれていることに、ドキドキするのに安心して。
彼の背中に手を回せば、甚八さんの顔が急に近づいてくる。
「愛果、愛している」
その声を合図に、私の唇がふさがれる。私は、幸せな気持ちで彼に唇を預けた。私たちの足元では、まるで祝福するようにキラキラと街の明かりが輝いていた。
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