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26 だからって全部実行しなくても
ヘリコプターはやがて東京上空を旋回して戻ってきた。
あんなに憎まれ口叩きあってきたのに、やっぱり私と甚八さんは住んでいる世界が違うらしい。彼はそのままスマートに、あの高級レストランに私をエスコートする。ここに来たのは久しぶりだ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
この前とは違うもてなしに、私は戸惑った。甚八さんはそのまま私の腰を抱いて、ウェイターについていく。甚八さんに腰を抱かれたのは、和装をしていたとき以来だ。これは、私の転倒防止じゃない! そう思うだけで、私の心臓がうるさいくらいに高鳴る。
「愛果、ドキドキしすぎ」
「し、仕方ないじゃないですか……」
赤面して俯くと、甚八さんは更に私の腰を強く抱く。
「前見てないと、転ぶぞ」
甚八さんは笑いながらそう言った。その直後、私は段差につまずいた。
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