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彦星?
奇跡的にキャッチできた。お姫様抱っこのような形で。
「ありがとうございます! 彦星様」
何を言っているのかは分からないが、女の子だった。同い年ぐらいか、すこし年下だろうか。綺麗なロングの黒髪に、和風チックな服を纏っている。
「本当の織姫みたい……」
思わず口から言葉が出てきた。
「あのー……。そろそろ下ろしてもらっても……」
「あぁ、ごめん」
地に足をつけたその子は、160センチほどだろうか。可愛らしいと言った表現がよく似合う。
沈黙が15秒ほど流れる。正直気まずい。
先に口を開いたのは向こうだ。
「あのー彦星様ですよね……?」
「違いますよ」
この子は馬鹿なのかな?
また沈黙が生まれた。
これ帰って良いのかな? もう暑いし、星も堪能したから、正直もう家に戻りたい。気まずいし。
「彦星様ですよね……?」
「違うよ」
リプレイ映像かと思った。
このあとの沈黙も同じく流れる。
「貴方が彦星様ですか! ずっとこの日を待ってました! 今日は楽しみましょうね」
「あ、そんな切り替えて、テンション上げてこられても違いますよ」
もちろん沈黙。
この子が馬鹿なことには変わりはないが、これ俺が悪いのかな?
すこし向こうがイラついてるように見える。暑さもあってか、正直俺もちょっとイライラ気味だ。
もう帰りたいので、痺れを切らし、今度は俺から声を出した。
「じゃあ今日はこれで、バイバイ」
「あなたの名前は?」
会話のキャッチボールを知らないようだ。
「長峰 涼太(りょうた)」
「やっぱりそうなんですか! 彦星様の本名じゃないですか」
「今適当に言ったでしょ」
「もー、さっきから何なんですか? 否定ばっかりで」
「だって実際違うから」
「違いません! 貴方は彦星様です! 何でそんな嘘つくんですか?」
「嘘ついてないよ」
「じゃあ彦星様じゃなかったら誰だって言うんですか!?」
「だから中峰涼太だって」
「何ですかその名前、絶対嘘じゃないですか。ていうかなんですかその服装。TシャツにGパンって。彦星様の自覚ありますか?」
「あるわけないじゃん。違うから」
「じゃあ何で、七夕の日にこんな出会いをするんですか? 織姫と彦星じゃないとありえないでしょ」
「いや、だってそもそも……」
「だってもロッテもありません」
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