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「どうして手間暇かけて種から育てるのですか?」
「おお、意外とマイルドな質問ですね」
「いえ、すべて手作りというのがお二人のこだわりだなと思って……。どこかから材料を仕入れた方が楽に思えるのですが、あえて大変な方を選ぶ理由を聞きたいんです」
そう言われた裕道は、縁側に目をやった。ひょうたんランプと草木染の材料が育つ庭を眺める。
即答しない裕道の代わりに果乃子が答えた。
「すべてこの土地で生まれたもので作品を作りたかったからですね」
果乃子の答えを聞いた裕道は視線を真里菜の顔に戻すと、ようやく口を開いた。
「楽しいから、ですね。種から育てると愛着がわくんですよ」
「でも、大変ですよね」
「大変です。農業ですからね。どんな作品が作れるかは天候にも左右されます」
「それならやはり、材料を仕入れた方が安定して作れるのではないですか?」
「たとえば、ひょうたんを買ってランプを作ったら『自分が作りたいこんなランプ』に合ったひょうたんを探すと思います。でも、自分で育てると、育ったひょうたんをどんなランプにしようか考えるんですよ。『こんなランプを作りたいからこんなひょうたんに育ってくれ』と思っても無駄なんですよ」
今、とても大切な話をされている。真里菜はそう思い、わずかに身を乗り出した。
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