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 真里菜は都内へ戻る途中、早速『灯彩工房』について検索するとホームページが見つかった。ひょうたんランプ作家の裕道(ひろみち)と草木染作家の果乃子(かのこ)という夫婦のユニットだった。  ――種から育てたひょうたんをランプに、畑で育てた綿花を糸に  ホームページに書かれたキャッチフレーズに、真里菜は心惹かれた。ハンドメイド雑貨の作家とは聞いていたが、材料から自分たちで育てているとは。  真里菜はインタビューが好きだ。この1年ラジオパーソナリティをやってきて数回しか経験はないが、インタビューをすると知らない世界に出会える楽しさがあった。早くこの2人から話が聞きたいと心が浮き立ったが、「いつまでもこんなことをしていていいのだろうか」という不安が浮き立つ心を沈めた。  このところ頻繁に不安になる。真里菜の本業は声優だ。しかし大した実績もないまま30を過ぎた声優に、明るい未来はない。  2か月前に公開された短編映画で主演を務めたものの、それ以降の見通しは立っていなかった。  高校時代の同級生の中には結婚や出産をする者もいれば、マイホームを持つ者もいる。真里菜のように独身でも会社勤めをしていればそれなりの経験を積み、1人で暮らしていける収入を得ている。  真里菜は本業である声優に差し障りがないように、居酒屋でのバイトを長年続けていた。無駄遣いはしないが、会社勤めをしている友人とは収入の差は歴然としている。  将来が不安だからといって、今さら会社勤めをしようとしてもまともな会社は採用してくれないだろう。  声の演技をしたいと思って10年間駆け続けてきたが、今確かに手元に残っているのはFMコスモのパーソナリティという仕事だけだった。
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