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 ――目的地周辺に到着しました。音声案内を終了します。 「ちょっと待って! 全然目的地に到着してないから!」  ピンクの軽自動車の車内に結希の声が響く。結希の制止も虚しく、カーナビは「お疲れさまでした」と言って黙り込んでしまった。  真里菜と結希は、灯彩工房の取材のために茨城県石岡市を訪れていた。カーナビに灯彩工房の住所を入力し、音声案内に従って到着した場所は田舎道の真ん中だった。  ここに来るまでの間、のどかな風景が続いていた。雑木林や畑が広がり、あちこちで柿が実っている。途中で牛の姿も見かけた。  FMコスモがあるつくば市の中心地とは異なる趣を真里菜は楽しんでいたが、目的の灯彩工房が見つからないのでは話にならない。 「どうしよう。直接電話して聞いたほうがいいのかな」  結希が不安な声を出す。助手席の真里菜がバッグからスマートフォンと吉沼からもらったメモを取り出して顔を上げると、前方にひょうたんと糸巻きをかたどった看板を見つけた。 「あ、あれが看板じゃない?」  真里菜も車内に響くほど大きな声を上げた。
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