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 中に入ると1頭のひつじがいた。本物ではない。羊毛フェルトで作られた人形だった。顔を少し持ち上げたひつじにつぶらな瞳で見つめられると、思わず口元が緩みそうになる。 「ホームページで拝見したんですけど、これが近くの牧場のひつじの毛で作られているんですよね」 「そうです。いつもたくさんいただいているんです」と果乃子が答える。  真里菜はここに来るまでの道のりを思い出した。のどかな田舎の風景の中で、のんびりと草を食んでいるひつじの姿が容易に想像できる。  羊毛フェルトで作られた動物たちは、大きなものから手のひらに乗るものまでさまざまだ。小さなものはここで販売もしているらしい。 「それと、こちらが育てた綿花を紡いで作った糸ですよね」  草木で染められた優しい色合いの糸が、素朴な木の糸巻きに巻きつけられて置かれている。 「すごい。ずいぶん予習されているんですね」  果乃子に言われ、真里菜は照れくさくなった。ホームページなどですでに公開されている話をもう一度聞くような手間は取らせたくない。そう考えてきちんと調べてきたものの、それはそれで初対面の感動が薄れてしまうというデメリットもあった。  それでも、写真で見たものと実際に見るものは違う。目の前で見ると作品の温度のようなものを感じる。写真撮影用の光の下ではなくギャラリーの窓から入る太陽の光に照らし出された羊毛フェルトの動物たちは、まるで生きているようだった。
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