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「そろそろ終わりの時間が近づいてきました。このあともFMコスモの番組をお楽しみください。コスモーニング月曜日、お相手は柴崎真里菜でした。それでは、素敵な一週間をお過ごしください」
生放送が終わるのと同時に、スタジオのドアが開く気配を感じた。振り向くとそこには、チェック柄のベストに紺色のスカートを身に着けた事務員が立っていた。両手を後ろに隠し、口は笑みを隠すように結ばれている。
「あれ……結希? どうしたの、今日は会社でしょう?」
初沢結希は水曜日だけFMコスモのパーソナリティをしているが、それ以外の日は不動産会社で事務員をしている。車通勤なので制服で通勤しているとは聞いていたが、制服姿を見るのは初めてだった。
「今日は記念日だからね。会社は遅れて行くの」
結希が後ろに隠していた両手を出す。右手には小さなブーケ、左手には地元の人気洋菓子店の紙袋が握られている。
「コスモーニングのパーソナリティ就任1周年おめでとう!」
「え、そのためにわざわざ会社遅刻してくれたの……?」
結希の手から真里菜の手に渡ったプレゼントを見ながら、真里菜は胸がいっぱいになった。
真里菜が茨城県つくば市のコミュニティFM「FMコスモ」のパーソナリティになってから1年が経過した。真里菜自身は認識しておらず、今日の生放送中にリスナーからメッセージをもらって初めて気づいた。
その後はたくさんのリスナーからお祝いメッセージが届いた。縁もゆかりもない土地にあるコミュニティFMのパーソナリティをしぶしぶ引き受けた1年前が遠い昔のように感じられる。
「初沢さん、グッドタイミング! ちょうど話があったんだ」
感動に浸る間もなく、ディレクターの吉沼が2人のもとへやってきた。
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