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洋介はその瞳孔の開いた片目を見て、これは自殺ではないと感じたが、身の毛のよだつ気味悪さに能力をシャットダウンした。
『実際、この部屋に一歩入っただけで体毛が逆立っている』
「どうしたの?」
相棒の望美がすぐに洋介の異変を感じ取って付近を警戒している。
先に部屋に入って背中を洋介に向けて腕を組む夏川千聖は、壁に貼られたポスターと棚に置かれたぬいぐるみを眺めて、女子高生の趣味に目を細めながら事務的な声で説明を始めた。
「そのクローゼットの中で首を吊って死んでいた。ハイビスカスの花びらはそっちの窓の下の床に落ちていたらしい。家族の話では久しぶりの休みで喜んでいたので、自殺なんて有り得ないと証言している。遺書はなく、状況から突発的な自殺と判断されたが、どうも私は腑に落ちない芸能人の自殺が続き、今回も不審に思っている」
しかし洋介はせっかちでマイペースな千聖を無視して、無表情で部屋の出入り口付近に立っているだけで、何かを調べるでもなく望美に時折顔を振り、早く帰ろうという無言の仕草をしている。
望美はそれだけで、この部屋の中に普通の人間には見えない何かが潜んでいると推理した。
『まさか、悪霊とか?』
洋介の視線が向く方を狙って、カメラのレンズを向けて素早くシャッターを押す。
その音にやっと二人を注視した千聖は、この調査は無駄だったかと早くも落胆した。
警察の科学的な調査では解明できない事件もあると理解しているが、苦労して上司を説得し、自分のキャリアを懸けてこの場に臨んでいると言うのにその態度は何だ。
「やる気ないのか?」
首を傾げて水に溺れそうな錬金術師に文句を言って、望美が写真を撮るのも終わらせて部屋を出る事にした。
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