【文】書庫の秘密(2020/07/07)

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【文】書庫の秘密(2020/07/07)

 城の地下にある書庫は、常時人の気配がない。ここはメインの図書館ではなく、古くなった蔵書を置いておく倉庫のようなものだから。  ここの管理を任された僕は他から見れば出世の道から外れた、うだつの上がらない人間だ。コネもなく、大した才能もない。昼もひとりぼっちで、自信なく俯いて歩くチビだ。  それでも、僕の人生は今が一番幸せだと言える。  そう、思わせてくれる人ができた。 ◆◇◆  夜も就業時間が過ぎて、城に残っているのは仕事が終わらなかった人やワーカーホリック気味の人ばかり。  その中、ただただ本が高く積まれた地下の書庫に残る僕は、とある人との逢瀬を楽しんでいる。 「あっ、あぅ! うぅぅっ」  大事な書籍を汚さぬよう片付けた机。そこに手をついた僕を後から、大きな体が抱き込んでくる。熱い肌が背に触れ、興奮した息づかいがとても近く感じる。涙目になって振り仰げば、端正な顔が快楽で上記し、切ない紫色の瞳が見下ろしてくる。 「ロア……」 「宰相、様」  目があって、切なげに名を呼ばれて、どちらからともなくキスをする。熱い舌が口腔を弄ってグチャグチャに絡んで、それだけでも頭の中は薄く霞がかかる。  身に受けている熱い楔が、中でまた大きくなっていく。苦しいのに嬉しくて、僕は涙を流しながら微笑んでいる。  宰相であるクローレ様とこんな関係になったのは、半年くらい前。僕がここに雇われて、半年以上経ったくらいだった。  ここに古い書物を探しにきたこの人に案内をしたのを切っ掛けに、少しずつお話をするようになった。  慕うようになっていた。でもこの気持ちは隠さなければと思っていた。知られたら、もう側にはいられないと。  だからこそこの人が僕を好いてくれているのだと知った時は、嬉しくてたまらなかった。  ズルリと引かれた楔が、奥を目指して突き入れられる。抉られるように奥に届く切っ先に突き上げられ、僕の中は切なく強く締まって足が震えて崩れそうになる。  その腰を、クラーレ様が支えてくれる。そうして更にされて、僕は訳も分からず喘いで睦言を繰り返している。  「好きです」「大好き」と、うわごとみたいに何度も言って、名前を呼んで、呼ばれて……。幸せな中で最奥へと何度も受け入れた僕は書庫中に響くような声を上げて達した。  体が心臓になったみたいにドキドキしたまま震えて、ぼんやりと浮いた頭の中は気持ちいいと幸せと大好きで占められている。  背中に、熱い体がのしかかるように触れて抱き寄せられ、深い部分にこの方を受け入れて、僕は呆然とした幸福に包まれている。 「ロア……愛している」  熱の籠もるこの方の言葉だけで、僕はきっと全てが満たされていくんだと思う。 【END】
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