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夢を叶えたいなら
自分にとっての一番の願いを叶えるためには根本的な部分から居場所を変更しなければならない事がある。
つまり「転生」だ。
しかしこれまでの【世界】の中で転生を繰り返しても、願いが叶う確率が低い場合もある。
【世界】そのものに「繁栄の術式」を展開できる開墾余地が無ければ…
人の願いなど、波打ち際の砂の上に描かれたラクガキが波に消されるように、ひたすら打ち消され続けるだけだ。
よって開墾余地の無い【世界】に関しては
(余程の思い入れが無い限り)
とっとと退会して、別【世界】へと乗り換えた方が良い場合もある。
それが「異世界転生」ーー。
「地球世界は詰んでる。地球世界はお先真っ暗。さっさと退会して別【世界】へと乗り換えよう」と
そう考えた参入者達が増えた。
そして大勢の参入者達が「カルマ清算のための生」と呼ばれる悲惨な人生を過ごして…
退会に必要な条件を満たし
地球世界から脱出していく。
さながら沈みゆく船から逃げ出すネズミの如くに…
地球世界は膨大な数の参入者が集中してしまい、各個人にとって繁栄のための開墾余地が狭まった。
そのせいで各個人の主観では充分に「地球世界は詰んでる」
ということになったのだ。
***************
そんなわけで俺もまたトラウマになりそうなほど惨めな「カルマ清算の為の生」をようやく終えて地球世界から無事に脱出した者の一人だった。
今どきはどこの【世界】も新規参入者を誘致するために様々な「新規参入者向けの特約」を用意してくれている。
なので「新規参入者向けの特約」のウマミを比較しながら新規参入する【世界】をじっくりと検討して選択することにしたのだった。
その結果ーー
俺が選択したのは水鏡世界という【世界】だ。
水鏡世界では新規参入者は
「幻影魔術」
というチート能力を使うことが出来るのだという。
基本的に「生まれながらに幻影魔術師の素養がある」設定の肉体への転生なので、幻影魔術師として生まれる新規参入者達は内部で覚醒する必要はない。
【世界】によっては…
「新規参入者達は内部で覚醒しなければ魔法を使えない!」
というルールがあるようなのだが…
(裏月世界なんかはその典型)
水鏡世界だと
覚醒することなくーー
(前世の記憶も「本来の魂の記憶」も持たないままに)
水鏡世界の人間になりきって人生を送りながら魔術師になれるらしい。
しかしそれだと
「異世界転生でありながら、ただの転生と余り変わりがないように感じるんじゃないのか?」
という疑問が湧くわけだが…
内部で覚醒する為のオプション契約も
別途に付いていた。
なんでも
「内部で覚醒しなければ、新規参入者向けの特約がちゃんと履行されたかどうか確認が取れないじゃないか!」
という苦情が相次いだことにより新規参入者数も伸び悩んでいた時期があったらしい。
つまりそうした先人達の苦情によって便利なオプションが付いたのだそうだ。
それならそれを利用しない手はない。
当然、俺は「新規参入者向け特約」に「覚醒オプション」も追加して水鏡世界に参入することにしたのだった…。
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