始まり

1/1
前へ
/37ページ
次へ

始まり

ついに高校を卒業してしまった。 いや、やっと、と言うべきなのか。 慣れ親しんだ施設を後にし、今日から暮らすことになるアパートに向かう。 6畳のワンルーム。決して広くはないけれど、18歳が都内で一人暮らしならこんなところだろう。 施設では手に入れられなかった自分の、自分だけの空間。 それだけで心が躍る。 今日から始まる一人暮らし。 これから広がる新しい世界。 すべてが新鮮でキラキラして見える。 「よしっ。頑張ろう」 一人小さく気合を入れてアパートまでの道をゆっくり歩く。 一度アパートに荷物を置き近所を散歩してみる。 駅から徒歩15分。ちょっと歩くけどその分あたりは静かで落ち着く。 駅前には商店街があり、日々の買い物にも困らない。 近所にはブランコと砂場だけの小さな公園とコンビニ。 なかなか周辺の環境もよさそうだ。 バイト先には歩いて約30分。駅の反対側だ。 駅の北と南で雰囲気がガラッと変わる。北側は夜の街だ。 明日から働くことになっているゲイバーも、その夜の街の明かりの一つ。 人見知りであまり口数も多くない自分がバーなんて、と不安に思うが、そこは頑張るしかない。 オーナーのかおるママもすごく良い人そうで、バイトに行くのを楽しみにしている。 生活用品と少しの食品を買い家に戻る。 今まで料理なんてしたことがないから、カップ麺だの冷凍食品だのを買ってきた。 (少しずつ料理とかも覚えていかないとな) 今まで施設の先生がやってくれていたことを、これからは全部自分でやらなければならない。 朝起きて、朝食の準備が整っていることなど無いのだ。 そう思うと、施設にいられたことは幸せだったのではないか、と思えてくる。 どうせなら炊事洗濯等の家事も出来るように習っておけばよかったと思った。 新居での細々とした手続きを済ませるとあっという間に夜になった。 一日がこんなに早く感じるのもどれくらいぶりだろう。 今までは何もする気がなく、時間が経つのが遅く感じていたのに。 それでも特にすることもなく、明日のバイトのために早めに休もう、と横になった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加