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episode 27
プルルルル・・・プルルルル・・・
アラームではない音を不思議に思いながら理人はスマホを確認する。
AM 3:52 着信 馨
こんな時間になんだろう、と思いながら通話ボタンを押す。
「はい?」
途端、叫び声が聞こえた。
「理人!すぐ来て!リュウ君が事故にあって・・・」
馨からの電話を切ると飛び起きて上着を手にし、急いで告げられた病院へと車を走らせる。
バクバクと鳴く心臓がうるさい。
なぜ。どうして。なにがあったのか。
そればかりがぐるぐると頭の中を支配して何も考えられない。
病院に着くと救急外来で馨が待っていた。
理人の姿をみとめるとすぐに走ってこちらへ向かってくる。
「ねぇ理人あんたA型よね?看護師さん!」
馨に呼ばれてすぐに看護師がこちらに向かってくる。
「A型なんですか?すぐに血液検査をお願いできますか?」
なぜ今自分の血液型が聞かれているのかわからず、でも反射で答えていた。
「血液検査?何で検査を」
自分は龍也の事故を聞きつけて病院に来たのだ。検査をするのは自分ではないはずだ。
「橘君はA型Rh(-)なんです。珍しい型で、輸血の用意がなくて。他院から輸送中ですが、少しでも早く輸血の準備が出来れば、と」
つまり龍也は輸血が必要なほどの怪我を負っているということか。
「お願いします。俺の血、全部使ってください。お願いします。龍也を助けてください」
必死の形相で看護師に叫ぶ。
俺の血で龍也が助かるなら、いくらでも取ればいい。
採血した血液を持って看護師はすぐに検査室へ向かった。
理人の血液が龍也に適合する事が分かれば、輸血のための採血が再度行われる。
結果が出るまでの間が、とてつもなく長く感じた。
「お店から帰る途中で病院から連絡があったの。リュウ君、面接のときに渡した名刺をお財布に入れてたみたいで。で、急いで病院に来たら輸血が必要だって。アタシはAB型だし、とにかく理人に早く連絡しなきゃって」
結果を待つ間、馨が状況を教えてくれた。
「ごめんなさい。本当に。なんて言って謝ったらいいか」
店から帰る途中での事故ということもあり、馨が責任を感じているようだった。
「いや・・・馨は悪くないよ」
今はそう言うしかなかった。
しばらくすると白衣を着た医師らしき人物と、先ほどの看護師が走ってきた。
「お待たせしました。ご家族の方でしたら拒絶反応もないので、すぐに輸血の準備を・・・」
良かった。俺の血が適合してるのか。これで龍也は助かる。
理人は自分の血液が適合している、という事しか耳に入らなかった。
しかし
「え・・・家族・・・?」
馨が唖然として理人を見つめる。
「どういうこと?リュウ君、理人の家族なの?!」
馨に言われて気づく。
(今医師は家族と言ったのか?俺と龍也が家族?)
いやありえない。そんなこと、あるはずが・・・。
「とにかく、今は早く輸血を」
見つめあったまま固まる二人を促し輸血の準備を進めた。
(*実際はA型Rh(-)は約500人に1人なので珍しくないです)
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