episode 28

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episode 28

無事に手術が終わると龍也は個室に移された。 機械につながれた龍也を見つめ、理人と馨は静かに話始める。 「家族ってどういうこと?」 馨にそう問われても答えることが出来ない。 「あんた、結婚してたことないわよね?そもそもゲイだし、・・・どういうこと?」 理人に兄弟はいないし結婚もしていない。そして子供が出来るような心当たりも・・・ と考えたところで、遠い昔の記憶がよみがえる。 1度だけ、女性を抱いたことがある事を思い出した。 確か16歳。自分の性指向に悩み、たまたま声を掛けてきた先輩と関係を持った。 その時にやはり自分の性対象は男なのだ、と確信を得た。 だがその時確かに避妊をしていた。でも、思い当たるのはそれしかない。 当時の話を馨にしたら馨も驚いた顔をしていた。 「じゃあ、その時に出来た子供がリュウ君ってこと?」 信じられないが、そうとしか言えない。 あのあとその先輩は親が海外赴任になったため転校した、とうっすらと記憶に残っている。 本当かどうかはわからない。 妊娠がバレて学校にいられなくなったのかもしれない。 真実はわからないが、でも龍也は生まれてきた。 たしか施設出身で、父親がいないとも言っていた。 何があったかは分からないが、母親と離れて施設で暮らし、高校を卒業して一人暮らしをして。 残酷な運命で自分と出会ったのだ。 なぜ。どうして。 こんなにも人を愛したことなどなかった。 初めて大切だと思えた存在だった。 なのに。 許されない。息子だったなんて。 どうしよう。どう伝えよう。伝えていいものかどうかもわからない。 絡まった思考は答えを紡ぎだせず、雁字搦めになっていく。 「理人」 馨がそっと肩に手を置く。 「信じられないかもしれないけど、これが真実なら受け入れないと」 混乱しているのもわかる。でも二人が愛し合っていることも知っている。 近親相姦なんて、と否定することも、好きならこのままでいいじゃないか、とも言えない。 他人が口を挟める問題ではない。 ただこれを理人一人に背負わせるのはあまりに酷な気がした。 「リュウ君にはいつか伝えないといけないと思う。でも、焦らないで。理人も混乱してると思うし」 この状態で実は親子でした、なんて伝えても双方良いことはない。 きちんと受け止めて、受け入れてからでないと。 「うん。怪我のこともあるし、龍也には落ち着いたら話すよ。俺もすぐには受け止めきれない」 ぼんやりとした頭で龍也を見る。 規則的に息をする龍也にほっとする。 (息子、か。どう伝えたらいいんだろう・・・) ふっとため息をついて視線を窓の外に向ける。 土砂降りの黒く重い空は、まるで自分の心を映しているかのようだった。
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