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episode 30
なんかおかしい。
もう1ヵ月以上そんな気持ちで過ごしていた。
メッセージを入れれば時間のある時に返してくれるが、返事がそっけない気がする。
電話もしていいと言われているのでかけてみても、タイミングが合わず繋がらない。
何がどうおかしいか、なんてわからない。気のせいと言われればそうかもしれない。
そもそも、自分が入院していたせいで理人は仕事が忙しくなっているのだ。
なら我慢するしかない。メッセージは返してくれているのだし。
そんなことを考えながらグラスを拭いていると、不意に眉間を指でつつかれた。
「リュウ君、また難しい顔して。かわいいお顔が台無しよ!ほら!笑って笑って!」
そう言われて笑顔を作るが、苦笑いになってしまう。
「元気ないわね。どうかしたの?」
そう優しく聞いてくれるママに、ぽつりと不安をこぼした。
「理人さん、忙しいみたいで。メッセージは返ってくるけどいつも遅いしそっけないし。電話も出てくれないし。お店にも来ないからずっと会えてなくて・・・」
話し出すと自分の声が震えているのがわかった。
手にしたグラスに映る自分は、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
馨は理人がなぜそんな状況を作っているのか想像がついて複雑な顔をする。
まだ、伝えられていないのだ。
受け入れることに時間がかかることはわかっていた。
だが、何も知らない龍也がこのままなのは見ていて辛い。
「そうだったの。私からも理人に連絡入れてみるわね。リュウ君が寂しがってるから会いに来なさいって」
そう言って頭を撫でてくれる。
理人もよく頭を撫でてくれたことを思い出したら、どんどん思いがあふれてきて止まらなくなった。
(泣いちゃだめだ。泣いちゃ・・・)
そう思えば思うほど涙は止まらなくて、とうとうしゃくりあげてしまった。
子供みたいにわんわん泣いた。
会いたい。声が聴きたい。抱きしめてほしい。
あの優しい笑顔で愛してると言ってキスをしてほしい。
いつまでも泣き止めない龍也を見て、馨は龍也を控室に連れていく。
「リュウ君。ちゃんと理人と話したほうがいいいわね。今日はお店は良いから、ちょっとここで休んでなさい」
そう言って一度部屋を出て、少ししてから控室に戻ってくる。
「はい。これ飲んで。理人、今から迎えに来るって。ちゃんと話しようって言ってたわよ」
暖かいココアを龍也に渡しながらママが言う。
(迎えに来てくれる・・・理人さんに会える?)
そう思ったが、ママの言い方が気になった。
(ちゃんと話しようって、何だろう。別れ話、じゃないよね?)
怖い。何を言われるんだろう。俺はただ前みたいにいられたらそれでいいのに。
理人が迎えに来る間、ずっと胸がどきどきして張り裂けそうだった。
甘ったるいココアのにおいは感じるのに、味は全く感じられなかった。
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