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episode 32
「ずっと、ちゃんと連絡できなくてごめんね」
理人はカップを置きながらゆっくりと話し出した。
龍也もカップをテーブルに置き、体を理人のほうに向ける。
「仕事、忙しかったんですよね?俺のせいでもあるし、理人さんが謝ることじゃ・・・」
そもそも自分が事故にあったせいなのだ。
仕事が忙しくなったのも、理人が悲しい顔を見せるようになったのも。
それ以前の理人は、こんな顔をして自分を見ることなどなかった。
「いや・・・。それもあるけど」
言い淀んで俯く。
手を伸ばせば触れる距離にいるのに、心はどこか遠くにあるような。
これから何を話すのか、何を聞かされるのか怖くなって理人の左手をつかむ。
「言ってください。俺、なにか理人さんを怒らせるようなこと、しちゃいましたか?忙しいのにいっぱいメッセージ入れたから?」
自分が何かしてしまったのなら謝って直そう。それで理人がまた笑ってくれるなら。
そう思って口にするが、それでも理人は俯き喋らない。
不安で泣き出しそうになっていると、意を決したように顔を上げこちらをじっと見つめた。
「龍也。今から大事な話をするから聞いて」
そう言って、龍也が掴んでいる左手を今度は理人が握り締める。
「この話を聞いたあとどうするかは龍也に任せるから」
聞いたら、もう今まで通りではいられなくなるのだろう。
漠然と、だがはっきりとそう確信する。
でもこれでやっと理人が変わってしまった理由がわかるなら、と握られた手に力を込め深くうなずいた。
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