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episode 33
「少し長くなるけど」
と前置きして理人は話し始めた。
龍也が事故にあったときの事。
出血が多く輸血が必要になった事。
理人が輸血のための血液検査をしたときに、自分たちが親子だと分かった事・・・。
理人が父親であると口にしたとき、龍也は驚いて目を見開いた。
「俺も、すごくびっくりした。自分に子供がいるなんて知らなかったから」
そして、一度だけ女性と関係を持ったことがある事、そのときに龍也が出来たであろう事。
「じゃあ、俺のお母さんがわざと子供が出来るように何かしたってことですよね?」
理人は避妊をしていた。だからその避妊具に何かしていたという可能性が高い。
針で穴をあけていた、とか。でもそんなことで、たった1回で?という思いもあった。
だが、結果として龍也が生まれてきたことは事実なのだ。
自分が知らない間に子供が生まれ、やがて施設に預けられた。
そして自分たちは他人として出会ってしまったのだ、と。
ここまでを話し、理人は言葉を止めた。
握っていた理人の手をギュッと強く握り直し、龍也が言う。
「理人さんはどう考えてるんですか?」
理人は一度龍也の目を見たが、すぐにそらしてしまう。
「俺は・・・。龍也の出した答えに任せる」
ずるい答えだと思う。
けれど言えない。
父親だから、親子だからなんだ?
俺は誰よりも龍也を愛してる。
ずっとそばにいてほしい。
しかし、それを龍也に強いることはできない。
自分が決められることではない。
もしも龍也が望むのなら、今日限りで龍也の前から姿を消すつもりだった。
父親としてしてやれることはしてやりたい。
でも、そばにいることはできない。
気持ちを消すことが出来ないなら、会わないほうが龍也のためだ。
このままそばにいたい。愛し合いたいと自分が願うことは出来ないのだ。
「俺は」
ぽつりと龍也がつぶやく。
「俺は、それでも理人さんと一緒にいたい」
握られた手から龍也の震えが伝わる。
「理人さんは、俺の父親かもしれない。親子、なのかもしれない。でも、俺は理人さんの事大好きだし、これからもずっと俺の大切な人だって、恋人だってそう思ってるから、だから」
だから、そばにいて、と。
言ってもいいんだろうか。
俺がいることでこの人の重荷になったりしないだろうか。
親子で恋愛をしているなんて世間にばれたら、咎められるのは理人なのだ。
自分はまだ未成年で、それだけじゃなくまだまだ子供で。
この人のそばにいることで苦しませてしまうなら。
簡単にそばにいてほしいなんて、言っていいのか。
でも多分、ここで言わなければもうこの人は俺の前から消えてしまう。
なんとなく、そんな気がして。
もう二度と会えないなんて嫌だ。
だって、こんなにも俺はこの人のことが好きだから。
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