ハル

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 一人でずっと立っているのも嫌になってきたので、一人で外に出ることにした。 玄関の扉を開けて、まだ履けていない靴を無理に押し込んで、かかとが潰れる。それを治してから外にでる。 外はやっぱり晴れていて光が降るようにさしていた。 鳥の囀りは、耳を覚ましてもそれは聞こえなかった。 街の冒険を理由に少しばかりお散歩をすることにしたけど、最初の一歩に迷う。 「右からいきましょう!」  悩んだ末に、適当に利き足である足を大きく踏み出して、そこからはいつものペースで歩き始めた。と言ってもいつものペースなんて、そんなこと考えて歩いたこともなく、今の高揚感や不思議な街を巡る緊張に比例するように足を進めた。  街は壁に覆われていて、その壁のせいで容易には外が見えないようになっている。 そして何よりも、この街の広さはそれほどでもなく。迷うことがない。 それにすれ違う人みんな真っ白。だけど骨格というのだろうか。形や雰囲気も声もそれぞれが異なり、違う存在ということ、意志があるということがわかる。 けれど、共通することがいくつかあって。 それは、みんなわたしの名前を知っているということだった。わたしに優しいと言うこともその一つだ。  「ユキちゃんおはようー」 「おぉ!ユキさんいつでも遊びに来てくれよなぁ!」 洗濯物を干しているおばさんも、こんな小さな街にあるお魚屋さんの店主にお肉屋さんの店主。みんなわたしに挨拶してくれる。  この通りにはお薬屋さんもあるし、商店街なのでしょう。 そんな人たちがみんな優しくて甘えてしまう。 「おはよう!」 笑顔をくれる人々に明るく挨拶を返してあげる。しかし、真っ直ぐ歩いていた道も数分で壁に阻まれてしまった。 なので、わたしは左回りで壁に沿って歩きたい。 街には建物だけでじゃなくて、見栄えを気にしてのことなんでしょうか、保たれた距離感にわたしより2倍大きい花も実もつけない葉だけの木が生えている。そして、そこらへんに落ちていたわたしの腕と同じくらい細い小枝を拾って、小枝を壁に押し当てながらも、沿って歩く。  カチカチとリズムをとる小枝の音は聞き飽きることもなく、いつまでもこうしていられる。わたしも鼻歌で加わり誰に披露するわけでもなく吹かして歩く。 「んんーふふーんふー」 誰にも文句の言われない鼻歌は素晴らしく気持ちがいい。ご機嫌になってしまいそう。 カンカンっ。  突然手に伝わる振動と、音が変わったことに気がついた。立ち止まって右を向くと門が構えていた。 カンカン。 小枝で門を叩く。 特に意味はないけど、なんだか。 少しだけこの外の世界がどうなっているのか。そんなことが頭を過ってしまった。
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