ハル

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 「ひらけっ!もんっ!」 グワァー。 誰よりも正直に動く門に満足しながら、開き始める門の隙間を覗き込む。 「おぉー。景色は変わらん」 ずっと遠くの方までお花畑。 とうとう見飽きてしまっている景色なのは仕方のないことなのでしょうか。 それはともかく、この街から出て一人でずっと奥まで行きたいと言う自分の我儘に抗って進む。 ここにきてから何度か出た事はあるけど、自分の目的のために歩いたこともなく、そこで何か一つ、何か発見があればいいなんて思う。 真っ直ぐ進もう。そうすればその帰りは真っ直ぐに逆を進めば帰れるから。だから問題はない。 わたしはやっぱり頭が良い。  不安はあるものの、進むための理由も戻る為の確信もあるので、ゆっくり進んでいく。  歩き進んでいくと、この原っぱは気づかないくらいの緩やかで小さな丘になっていることに気がつく。 わたしは坂を登ってきていたのだ。 景色はなに一つ変わりはしないけれど、軽い下り坂に差し掛かって、もう少し進むと街はすっかり斜めな丘に隠れてしまっていた。 少し不安にもなってしまったので、素直に真っ直ぐ、そのまま引き返すことにした。  進んでいた道から右回れ右をして真っ直ぐな簡単な道を引き返し歩きはじめる。 こんな時も景色は一緒で、飽きてしまっていたことも忘れた。 「あれっ?」 あれあれ。もう一つ先の丘を登らなければ街は見えないのでしょうか。 でも、わたしは一つの丘を登っていただけだったような。  少し早足になって、来た道のまま真っ直ぐ戻ってみるけれど、街が現れてくれる気配がない。 その代わりに、もう見飽きてきているお花畑が続くだけだった。 「もうなんなのー」 この世界の不思議さに不安を覚え過ぎてしまい、背中から柔らかい原っぱに向けて倒れ込んでみる。 目を瞑ると、しつこい光がわたしの目蓋裏まで照らしてきたので、そんな光を遮るように腕を目に重ねた。 けれど、次に優しい風がわたしの身体を撫でた。 このままずっとこうしていればいつかハルが迎えにきてくれるかも知れない。優しい街の人たちが駆けつけにきてくれるかも知れない。 都合の良いことを思えば思うほどに、心地いい風がわたしを撫でる。  だからわたしは立ち上がり流れてくる風とは逆の方向へ歩き始めた。 風が嫌いだった。 わたしを甘やかしてしまう風と、心地いい空気が嫌だった。 わたしは一人でも大丈夫だって文句を言うように。ハルがいなくてもわたしは大丈夫だって。この春の雰囲気から出ていくように歩き始める。同時に考え始めてる。 ハルが言っていたこの世界のルールも秩序のことも。だけどハルがなんて言ったのか覚えてもいないわたしは、自分が嫌になった。 だから、八つ当たりに足を蹴り上げて足元の花を強くちぎった。 その時だった。 履いているスカートのポケットに違和感を感じた。
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