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「ひらけぇー!もんー!」
ぐわぁー。
「その開け方ダサいからやめてよ」
「いいんだよ、わたしなりの門への愛情表現だからね!ほら門も喜んでるよ」
「なんだよそれ」
呆れるハルをほっといて開く門の隙間を覗くと賑やかな声が聞こえてきた。
「すごぉーい!」
同時に、目に入った光景はありえないものだった。もともとありえない事もあるけれど、それ以上に驚かされるものだったんです。
街中の建物が姿を消して、真っ暗なはずの天井には、星を見せるようにひかる小さな球体達。
そして、街の中心に生えた大きな木がライトアップされている。
天井ギリギリまで伸びる。高さはわたしが30人分くらいかな。それもそうだけどあの幹の周りはいったい何人が手を繋ぎ輪を作れば囲えるだろう。
そんな木の葉は緑で覆われている。
「桜の木、まだ咲いたことはないんだけどね」
見惚れるわたしの隣でそっと口添える。
「咲かない理由って…」
「関係ないよ。それよりみんな待ってるから行こう」
強く手を取られて中へ入っていく。
取られた手にはハルの力を感じた。
少し痛いけど我慢できない訳ではなくて、そのハルの今の気持ちがわかる気もしていたから、何も言わなかった。
ただ、もっとハルを感じたくて手を握り返した。
「おーい!ユキさーんまってたよぉ」
「ユキちゃん、よう来てくれたね」
「ユキさんおそいー」
ぼんやりとした暖かい光は、まるで夜を照らす月明かりのよう。
木に向かい二人で歩いていと、優しい街のみんなが声をかけてくれて、その中に女の子の姿もある。その人達に頭を下げながらさらに進んでいくと、長老の極楽そうな声が聞こえた。
「ユキさんにハル、今日を楽しむといい。
ヒェッ」
右側の温泉の湯に浸かりながら頬を赤く染めた長老がお酒を片手に手を振っていた。
「長老も飲み過ぎず」
「おじいちゃんもたのしんでねぇー」
手を振って挨拶を交わした。
「ユキ、足湯は好き?」
「うん」
ハルに聞かれたので首を縦に振り頷いた。
繋ぎ合う手が苦しくならないように合わせる。
もう少し進んでいき、ようやく街の中心に着く。
大きな木を目の前にして上を見上げて見ると、やっぱり大きい。
それから、足元には桜の木の根が地面を潜っている。
その周りには、水が溜まりそこからは湯気が立ち昇って、その湯気が光に当たり幻想的だ。
「ここのお湯はこの街が生んだものなんだ、それでこの木が生きられてるんだよ」
靴を脱ぎ始めるハルを見習い、わたしも靴を脱ぎ始めた。
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