出発点

4/4
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 あー、寝ちゃってたかな。 それより今、目が覚めた理由に不快感を感じている。何者かが窓を叩いている。でもそれはぼんやりとしか感じることしかできなくて、まだ眠っていたいという欲に促されるまま。 「まだぁ、ねむい」 未だに保たれている光。 このままずっと眠っていても誰も文句も言わないし、誰かに迷惑もかけないからだいじょぶだ。 「おーきーろー」 窓越しから聞こえる誰かの籠る声は、きっと気のせいだ。ねむーい身体をゆっくりと起こして、あくびをする。 「そこの君、ドアを開けてくれ」 起きたばかりの鈍った身体に緩やかな暖かさと、伸びる身体は気持ちいい。こんな時間がずっと続くようにとお願いしてしまう。 「おい!聞こえてる?」 さすがに、その声を無視することもできそうにない。背後から聞こえる確かな声に振り向いた。 「うわっ、きもちわる」 「ひどっ!」 列車の窓に顔を押し当て、不細工に写っていた。わたしと同じくらいの歳の男の子。 唐突な出来事につい悪口をこぼした。 その男の子はこちらを凝視していて、まるでわたしに恨みでもあるようだ。窓越しじゃなかったことを考えると背筋が凍る。 まあ、それは言い過ぎかもしれない。 「なに?きもちわるい」 「早く出てきてよ」 怒る男の子は窓を息で曇らせながら必死そう言うけど、警戒してしまっている以上、そう簡単に承諾することはできない。だから窓越しから探ることにした。 「あなたは誰なの?」 そう言うと、窓越し男は一度口を閉じて何か考え込んでから再び口を動かした。 「怪しい奴じゃないのは確かだよ」 「うわっ、むりむり」 「なんでだよ!」 ずっと怒っている不審者は、列車のドアの方へ向かうので、列車内から付いていくことにする。 「なにが目的なの?」 新たな質問をしてみると、その問いに答えることなくこちらの方へ指を指してくる。 そのジェスチャーの意味は、指す方向を目にして理解できた。 そこにはドアを開ける為であろう緑のボタンがあった。そのボタンに何度も指を指す不審者の行動にますます警戒心が湧いてしまって、押すことはしない。 「はーやーくぅー」 警戒しているわたしを急かす不審者は、自分のせいでこんなに警戒していることはきっと知らないんだと思う。 結局、何分もその状態が続いてしまい、とうとう諦めたらしい不信者は溜息を吐いて、後ろを向きドアから距離をとった。その隙を見て、わたしは緑のボタンを押した。予想していた通りに、いや予想以上に、素早くドアは開き、わたしは反応に出遅れた。 「ふっ!」 瞬間のこと、「隙あり」と言わんばかりに素早く振り返って、こちらに走り込んできた不審者。 そんな恐怖を目にして、隣にあった赤色のボタンを瞬時に押した。 ドアは閉まる。 どんっ!とおでこをぶつける不審者。 多分すっごく痛かったと思う。 目の前で蹲ってしまう不審者よそんな姿。最初から感じてた通り、決して悪い人には見えなくて、もう一度緑のボタンを押した。 「ふっ!」 「うわぁ!」 突然のことに目を瞑った。 そして腕を背中に回されて抱きつかれて、押し倒されてしまう感覚と共に、けれど気づいた時にはもう遅かったと言うどうしようもない状況に身を任せていた。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!