ハル

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ハル

 スンスン。  鼻先に意識を覚ませて、匂いを嗅いでしまうのも仕方ない。優しい花の匂いに落ち着いてしまい、覆っている温かい体温が心地いい。体重がかかるはずの状況なのに、不審者の気遣いなのか、重さも痛みもまったく感じない。 「やっと会えたんだ」 耳元でそう呟く不審者さんの声は綺麗で、だけどなんだか悲しそうで、今にでも崩れ落ちてしまいそう。 「あ、あの?」 不安気に、それも控えめに出たわたしの声と同時、心地のよかった感覚がだんだんと離れてゆく。 「ごめん、嬉しくてさ」 立ち上がった不審者さんは笑う。 その顔は悲しそうじゃなくて安心できた。 だけど、さっきドアにぶつけたおでこが薄ピンク色の跡を残していることに気がつく。 「おでこ大丈夫?」 心配を装って小馬鹿にしてみる。 「だいじょばないよ。困った人だよ、ユキ」 呆れながらおでこに手を当てて言う。 後に続いてわたしも立ち上がる。 「ごめんなさい、でも怖かったんだよ?あなたがどこの誰かもわからないし」 「ごめんごめん、僕も悪かったよ」 仲直り?でも、初めて出会った人と突然の仲直りは、やっぱり少しだけおかしい。 「うん、もう大丈夫」 少しずつ、距離感を掴みながら話を進めていく。 「ハルって呼んでくれ」 「わ、わたしはユキ。よろしくね」 「よろしく、ユキ」 自己紹介は済んだ。安堵しているのも束の間に、次なる疑問が出ていることを把握している。 「それで?」 「うん、なんでも言ってよ」 ハルのそのお言葉に甘えて、第一である問題の疑問を吐いた。 「ここはどこ?」 「列車の中だけど?」 深く溜息をつく。 そして、現状的な問題の解決はこれからだと言うことを理解した。
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