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「もう!わかんないよ!」
「しょうがないだろ!この列車が動かないとここから出れないんだよ」
「でもわたしはやだっ!」
「僕も嫌だ!」
列車の中がうるさい。
わたし達が今座席に座り子供のような口喧嘩を繰り広げているのには幾つか理由があるんだけど、どれにしたって悪いのはわたしじゃない。突然ハルが意味のわからないことを言ってきたせいだ。
もちろん、最初はわたしなりに理解しようとしたけど、あまりにも非現実的な話についていけなくて怒った。だからハルが悪い。
この狭い空間にもそろそろ嫌気がさしているのかもしれない。そんなストレスをハルにぶつけているだけなのかもしれないけど、でもハルが悪い。
「わたしはもう動かなくてもいい」
言い合いの最中、遂には開き直って目を背けるけど、これが一番いいことだと知ってるからそうするんだ。
そんなわたしに対して、最後まで子供なハルも開き直ってしまう。
「あーあ、なら僕はもうここから出るから、本当に知らないから」
ドアの方へ向かって行ってしまい、それを止めることなく無視した。今さっき出会ったばかりの人と一緒にいるのも面倒だから、別にいい。
数秒後に、ドアが開く音が聞こえてくるだろう事に身構えて、耳を澄ましていると、なかなかその開く音が聞こえてこなかった。
ほんの少しだけ気になってしまい、振り向いてみると、焦りながらボタンを連打しているハルがいた。
「早く出てってよ」
「あ、開かない」
呆れたわたしは、仕方なくドアの方に向かい今度はわたしが押してみることにする。
その前に、これが罠じゃないことを確認する為、ゆっくりと様子を伺う。
本当はドアのボタンを押したフリをしているだけで、わたしがドアに近づいた時に無理やり外に連れて行かれたりしたらたまったものじゃない、それに一度外に出たら外からは開けることは出来なそうで不安だ。
慎重に歩み寄って行く。
わたしはこう見えて賢い。
我ながら完璧な対策を練って慎重に近づくけれど、本当にドアは開かないようだ。
「ちょっと押させて」
そう言った後、容易にボタンを一押しすると、ドアはスムーズに開いていく。しかしそれは、予想以上なくらいにスムーズだった。
瞬間だった。
「ふっ!」
腰に手が回ってくるのを感じた時には、時すでに遅し。
「えっ?ちょっとっ!?」
身体が簡単に浮き上がり運ばれる様は情けなく、それに持って相手の思い通りになってしまった事に対しての悔しさも溢れた。
「はいー、僕の勝ちー」
「さいてー!」
ゆっくりと外の地面に下ろされて寝転がる。
悔しいけど、やっぱり気持ちくてあったかくて、花の匂いも、外の空気も空間も好きだ。
「悪くないでしょ?」
「んふぅー」
「ねぇ、聞いてる?」
悔しいから無視する。
「これからわたしはどうすればいいの?」
開き直っているわたしの今の気持ちは、この意味のわからない状況に向けての抵抗なんだと思う。
「まずは列車を治す」
ハルの指差す方向を見れば、列車が目に入る。綺麗な春の風景の中に、錆びた車輪に胴体は凹んで炭で汚れている列車だ。
本当にこんなものが、よくもまあ動けていたなと思うほどのオンボロよう。
「あれは、誰かが治してくれるんでしょ?」
「駄目だよ、誰も直せないんだから」
「そんなのわたし達じゃむりだよー」
「でも、僕らだったら絶対にできる」
まだ意味のわからないことを言い続けるハルの顔を見れば、視線はオンボロの1車輌を見つめていた。その顔はなんだか強く、何か目的があるように見える。
でもわたしはそんな顔が嫌い。
これはハルだからじゃないの、誰のでもそうなの。意味はたぶんないけど。
「かっこいいね」
嫌になって茶化してみる。
「ユキはもっと可愛いからだいじょぶ」
「え、ああ、ありがとう」
心の中では悲鳴をあげてしまい、仰向けで光を浴びていた姿勢を反転させて、俯背になって顔を隠した。
「早く行こう、街に行かないと人の手も借りれないから」
「え!街あるの?」
気づけば、もうハルは勝手に歩いて行ってしまいて、ここで1人残るのも馬鹿馬鹿しくて、仕方なくついていくことにする。
もう少し女の子を待ってくれたりしてもいいのに。
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