ハル

3/27

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 「ねぇ、ここは何県?その前に日本なの?」 「そう、僕もこの花も、あったかさも、この光もこの場所だよ」 「なにそれ、よくわかんないってば」 わたしの質問をテキトーに受け流した腹に文句を垂れれば、一本の土道を隣り合わせに歩き始めている。辺りは花と優しい空から降り注いでいる柔らかな光だけ。 まだまだ歩き続けるようなので、隣にいるハルに鼻歌を披露しながら進む。 「んーふーんふふーふー」 「なにそれ?ヘタクソだね」 「うるさい」    『いやだ』 突然頭の中で憎むように掠れた誰かの声が、ぐるぐると聞こえた。 立ち止まってしまい、その声を聞こうとしたけど、それ以上はなにも聞こえない。 「ユキ、どうしたの?」 「あ、いや。なんでもない」 不思議な感覚。 何処かで聞いたことある声なのに思い出せなくて、思い出そうとすると忘れようとしているように感じてしまう。 眉間にシワを寄せて深く悩み込んでいるとハルの声が遠くなる。 「早く進もうよ」 離された距離を縮めるために歩くスピードを上げる。そして先にいるハルの方を向いてみる。足を弾ませてみた。 もっともっと早く進もう。 涼しい風が吹いてくれているから。 「まだまだ歩ける」 「元気だな」 「まぁーねー」 ステップ、ステップ、ステップ!
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加