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「で?ここ本当に入るの?」
「酷いな、別に普通の街だよ」
目の前に聳え立っているのは、わたしの3倍くらい大きい門。
それに対して、不安を持つのも不自然なことではないし、このご時世の普通と言う街に門なんてないんじゃないんでしょうか。
それに、関係ないことだけど、わたしは人と関わるのがあまり好きじゃないし、今の現状にて街に入ると言う事自体、注目の的だから尚更に嫌だ。
「むりです」
「だめです、入ります」
トントン。
ぐわぁ。
ハルが門の真ん中を2回ほど叩くと、変に低い音を立てながらゆっくりと開き始めた。本当は見たくない街中の状況。でも、わたしの中の好奇心が勝ってしまい、「ごくり」と唾を飲んで、隙間から見える街中を凝視してしまっていた。
「やっぱりむりー!」
当然心の準備なんてものはなくて、街の風景に怖気付いてその場から離れようと足を引き返そうとした。しかし、いつのまにかハルの腕が私を掴んでいて離れられない。
「だいじょうぶ、僕がついてるから」
「頼りない!むり!」
「た、頼りなくないだろぉ!」
どう足掻いても、腕を掴まれたまま抵抗もできず、街中へと入っていく。そして、駄々をこねて引きずられながら進んでいく。
だんだんと人の声が聞こえてくるのを鼓膜で感じとる。
最悪だよ、人とは本当に関わりたくないのに、せっかく気持ちよかったこの空間がこれで全部台無しだよ。本当にここがわたしの世界なんて言うなら。こんな嫌なことばかり起きる場所がわたしの思う場所だと言うのなら、それは絶対に違うって言える。
「あれ、ユキさんじゃないか?」
「えぇ!ユキちゃんなの?」
ざわざわとした声が近づいてくる。それに耳に入るわたしの名前。まるでわたしのことを知っているよう。
「ほんとだぁ!ユキさんだぁ!こんにちは」
すぐ近くまで、生き生きとした小さな女の子の声が聞こえて来た。それは完全にわたしに対しての言葉だ。
瞑っていた目を細くあけてみる。
すると、なんと。ありえない。
そこには、真っ白で口や目が線で縁取られた人型のナニカがわたしの周りを、ワイワイと囲んでいた。
「きもちわるぅー!」
「お、おい!失礼だろぉ!」
「いったーい!」
混乱したわたしの頭の中に感じたハルからの平手は優しかった。
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