忌まわしきは煙の中に

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「いやしかし、2枚となるともっと低い確率じゃないか。流石は幸運の持ち主だなあ」 「流石とは、私の過去の出来事ことを指しているのかい?」 「えっ」 越光は手首をひっくり返しながら青山を指差した。 「確かにドラゴンに命を救われると言うのはとてつもない幸運かもしれないが、不幸の中にある限りどんな奇跡も『不幸中の幸い』に過ぎないのだよ。そもそも、真に幸運な人間は飛行機事故になど遭わない」 「仰る通りです……」 越光はその事故で両親を亡くしている。青山はよりにもよってその事故を幸運などと呼んでしまったことを酷く後悔して恐縮した。しかし越光は嫌味っぽさを含まずにその姿を鼻で笑った。 「いやなに、君の言うことも一理あると解釈できなくもない」 ドラゴンは事故のショックで生じた幻覚であるとの烙印を押され、誰にも理解されることのない孤独を彷徨うかのような半生を乗り越え、ようやく手にしたこの状況は幸福であると越光は考えていた。 「ドラゴンと言う未知の生物に再開し、それに関わる仲間もできた。他の人間では体験できないような冒険と躍動に満ち溢れた日々……正直、あの不幸と釣り合うようなものなのかは分からない。それでも今私は楽しいし、皆が周りにいてくれると悲しさも安らぐ気がするよ」 越光は柄にもなく恥ずかしそうにしながら、それでも力強くそう言い切った。そしてその言葉で一連の会話に区切りを付けると、周りのカードを集めてカードの種類で分別した。 「さて、何にせよこのゲームは私の勝ちだ。次に入浴する権利は私と彼女が貰っておくよ」 「悪いなエルト。せっかく任せてもらったのに」 「お気になさらず。見守るのもまた一興ですので」 「でもまだあの二人戻って来ないわね。練習も入れるともう二試合もやってるのに」 有子は腕時計に目を落とし、長針が間もなく一周しようとしていることを確認した。
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