忌まわしきは煙の中に

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「それなら、もう一回やりましょう。メンバーを入れ替えて……」 先程卓を囲っていた四人全て二人組の片方であるため、その中で入れ替われば新しい組み合わせでもう一試合を行うことができると有子は提案した。 「もう順番は決まってるから、これはエキシビションよ。今度こそエルトに勝つわ」 エルトが一戦目から龍希を押し退けてプレイヤーになることはないと有子は予め年相応の遊びたい欲求を抑え自分も代表の座を越光に譲った。そして順番決めの趣旨を妨げる心配のなくなったこのタイミングで自らの想いを全面的に押し出した。 エルトもそれに応えるつもりだったが、耳を小さく動かして幕引きの時が来たことを悟る。 「御二人が戻られたようですね。次は有子様の番ですので、再戦はまたのご機会に」 「うっ……」 「どうした。間が悪かったのか?」 「いえ、とても良いタイミングです」 「そうは見えぬが……」 湯上りのブランクはエルトの言葉と噛み合っていない有子の湿っぽい表情に戸惑いながら、二人と入れ替わりでテーブルの側に座った。 「すいません。もう少々お待ち下さい。今スタッフに軽く掃除をさせますので」 「そこまで大袈裟なお気遣いは無用だよ。明日も平日でそう遅くまで残れるわけではないのだから、交代はスムーズにやろうじゃないか」 「御二人がお気になさらないと言うのであれば、それで構いませんが」 「私は別に平気よ」 「無論私もだ。寧ろ良い出汁が取れているかもしれない」 「誰が昆布ですか。良い度胸をしていますね貴女も」 ルゴールドは脱衣所に向かう越光の額を指で軽く突くと、定位置である楠木の後ろに座った。そして首を伸ばし会話の最中に黙々と楠木が片付けていたボードゲームを覗き込む。 「この間のやつですか?」 「ああ、これで順番決めてたんだ。結構時間掛かるやつだから途中で戻って来るかと思ったけど案外大丈夫だったな。そんなに盛り上がっていたんですか?」 「いえ、盛大に盛り下がってました。話題が話題ですので」 「まあそう言う場を用意する意図も勿論あったんだけど、よくもまあ小一時間それで通せたもんだな……」
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