忌まわしきは煙の中に

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「実のところ、今回はボスの要望なんだ。時空魔法に関する情報を聞き出して来いって」 (……!) ボスと聞いて有子が思い浮かぶのはアッシュ・グリスタただ一人しかいない。 口調や態度はやや粗暴だが、非常に聡明で病魔に侵されている状況でもなお落ち着いていた。加えて必要とあらば人間の技術だろうと臆面もなく取り入れる胆力の持ち主でもあり、それが知的好奇心と調和してどこまでも技量を伸ばして行ける素質となっている。 正直なところ、有子がアッシュと一度会って話をした所感は優れた有識者と言ったものであった。事前知識があったため善人だとは思わなかったが、言い換えればそれがなければ悪人とは認識できなかったと言うことである。 未だに底を見せず、要所で現れては遠巻きに眺めて消え去るようなことばかりを繰り返す不気味な存在。それが龍希の情報を探っているともなれば一層用心しなくてはならない。 「羽桜龍希は龍王エルゼ・マキナの血を取り込んで時間を操る魔法を習得した。そこまでは僕達も知ってるんだけどね。そんな強大な力を振り回して暴走する男をどうやって止めたのか。そこをボスは知りたがっているみたいだね。僕もかなり興味があるよ」 しかし、話は単なる情報収集で終わらなかった。 「ただ、方法は自由だとも言われててね。本人から聞いても良いし、他の人からでも良い。別の目撃者を探しても良いし、誰の前にも姿を現さず盗み聞きしたって良い」 ライズは指折り数えて選択肢を羅列した後、最後の一本で有子を指した。 「だから僕は迷わず君を選んだよ」 つまりアッシュからの指示に乗じて有子に対する個人的な好奇心を満たしに来たと言うことである。有子には情報を出すつもりがないため、当然交渉や話し合いなどと言う生易しいものでは済まない。寧ろ、ライズはそれで済まないからこそこの場を選んだとさえ思えた。
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