忌まわしきは煙の中に

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(何か、策を……考えないと……!) 純粋な戦力ではライズの足元にも及ばないことは有子も理解しており、撃退するには意表を突くような戦略が必要となる。 しかし周囲に利用できるようなものはライズが面白半分で用意した湯水とそこから上がっている湯気程度しかない。また心理戦を仕掛けようにも背景が不明慮で戦う動機も不純そのものであるライズには問い掛けと言うものが通用しない。それどころか有子が必死になって喋り立てる様を見たくて仕方がないとさえ思っている以上、説得や交渉を試みても見世物にされるだけである。 「ホラ、こんな傍まで来ちゃったよ」 有子が攻めあぐねている間に一歩ずつ近寄っていたライズは既に手足が直接届く距離まで来ており、わざとらしく手を振り上げた。 「このっ……!」 「おっと、足が滑ったみたいだ」 水のナイフで反撃しようとしたところに待ってましたとばかりに蹴りを入れた。脇腹に鋭い足の爪が突き刺さり、衣服の無い有子はそのまま肌を傷付けられて打ち上げられた。 「が、あっ」 「湯冷めしちゃうよ?」 そして石畳の上に転がっている有子を憐れむように覗き込む。ライズは戦闘に興じるつもりもなく、ただ面白半分に有子を嬲って楽しんでいる。本来隙を突くにはこの上ない好条件だが、ライズの場合隙を敢えて晒して有子の一手を待ち構えている状態であり油断しているかどうかも判別が付かない。 いずれにせよ、このまま戦闘が続けば容易く行動不能に追い込まれる。その後はライズの宣言通り、特別な条件を設けることなく口を割らせることができるかと言う企画に付き合わされることになる。 しかし、此処で口を割らされるのであればまだ幸せな方であることに有子はまだ気が付いていなかった。
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