忌まわしきは煙の中に

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越光はライズに悟られぬように咀嚼と嚥下を行った。それは固唾を飲むためではなく、もっと重要なものを体内に取り込むための動作である。 異変は直ぐに始まった。 恐怖はあったが、それを捻じ伏せる覚悟も共にある。故に躊躇いはない。それに呼応するかのように、越光の心臓が破裂しそうなほどに強く高鳴った。しかもそれは一度限りではなく、堪えようのない熱を全身に運ぶべく何度も絶え間なく鼓動を続けた。 「グアッ!」 越光は肺の中で暴れ狂う熱風のような空気を苦しくなって吐き出しただけのつもりであった。しかしそれは有子が驚愕しライズは糸目を開く程の咆哮となり防音の結界の中を反響した。 (おお、これが……!) 酷い頭痛と意識の混濁はあるが、全身に漲る力に感心できる程には思考力が残っている。その力を足元から噴出させるイメージでコントロールすると、膝まで湯に浸かっている状態にも関わらず体は湯船の外に飛び出し、ライズの下まで飛翔することができた。 「一体何が起きているんだ。何故こんな力が……」 本能の滾るまま四肢を振り回す打撃が戦闘経験者に当たる筈もなかったが、不意を突いた甲斐はありライズを有子から引き離してその間に割り込むことに成功した。 「グギィ……フゥゥ……!」 「中々の狂犬ぶりだね。明らかにさっきとは様子が違う。あの時のメンバーにはいなかったからノーマークだったけど、君も面白いことをやってくれるじゃないか」 ライズは蛇のように頭を動かして越光を観察しているが、有子にはその越光の様子に覚えがあった。 (あれは、どう見ても龍化してる。でも一体どうやってドラゴンの血を……!?) 奇妙なことに、敵対の関係である有子とライズが越光を挟んで同時に考察を開始した。
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