忌まわしきは煙の中に

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人間が龍の血を体内に取り込んだ場合にしか起こらない筈の龍化を突如越光が発現させ、力任せに暴れ出した。この状況は決して良いものではないが、あのまま押し切れられてライズに攫われるよりも遥かに進展が望めるものである。 (二対一なら勝機はある。奴の注意が越光さんに向けば、策を張るチャンスがあるかもしれない……!) 例えるなら、ライズが一方的に保持していたボールが零れ落ちフィールドを転々と跳ねているようなもの。このボールを先に拾い、主導権を握らなければならない。そのためには龍化の謎を解き明かすことよりも龍化した越光と力を合わせてライズを打ち倒すことが先決である。 「ユウコと違って彼女は秘めた力を解放したような様子はない。つまり最初から持っていたのではなくあの瞬間にいきなり目覚めた力ってことだ……」 一方、ライズは涼しい表情で打撃を躱しながらゆっくりと謎解きを楽しむ方針を取った。 越光は龍化の影響で身体能力は飛躍的に上昇しているが、それはあくまで人間と比較しての話でありドラゴンには遠く及ばない。加えて越光自身も格闘に関する経験やセンスが皆無であり、ただ飛んで来る手足を避けることはライズに取って容易いことであった。 そこでもう少し近距離から観察しようと踏み込んで接近し、頬を掠めるギリギリのタイミングで越光の拳を躱したその時であった。 「痛ッ……!」 今まで余裕の表情を崩さなかったライズが顔を顰めて飛び退いた。距離を置いて拳が近かった方の頬を撫でると、皮膚が裂けて出血していた。 (あの程度の速度じゃ真空による裂傷なんて起こる筈がない。つまりこれは魔法、それも少ない魔力でも扱える風の魔法……ん?風……?)
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