忌まわしきは煙の中に

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その裂傷が靄をも割いた。ライズは記憶を遡り、襲撃の寸前に大して注目していなかった越光が何をしていたのかを改めて想起した。 『見たまえ。前に入った隊長君の落とし物だろう。本来なら私は入浴した瞬間これに飛び付いているところだったが、君への好奇心がそれをかすませた。これは私自身の中でも驚くべきことだよ。誇って良い』 その言葉と共に越光が手に持っていたルゴールドの羽根をハッキリと思い出した。自分が襲撃を行った際、越光の手の中にはまだ羽があった。そして越光自身が緊急事態を認知した時、直ぐに「手を口に当てた」。 (テンパってる割には妙な仕草だと思ってたんだ。あれは口を塞いで植物の侵入を防いだわけでも、沈黙を強調して僕に無害をアピールしたわけでもなかった。手に持っていた羽根を口に入れたんだ!) 成長を終えた羽から血液を摂取することはできない。しかしあの時越光が手にしていたような小さい羽であれば、成長に必要な栄養を受け取るための血を通す血管が確りと存在している。 それを噛み砕いて飲み下したことにより、越光はルゴールドの血から龍化を行ったのである。 「君、面白いなあ!気に入ったよ!」 その声は届かないと分かっていても、ライズは称賛と感心の声を越光に送ることを躊躇わなかった。 ライズはただの人間である越光を軽んじており元々眼中になかったと言えど、戦闘中の基礎的な心構えとして不審な息遣いや動作があれば即座に対応できる程度には警戒をしていた。そんなライズが口を塞いだのだと誤解するほど自然な動作で羽根を口に入れたと言うことは殆ど無心のまま体を動かしたと言うことに他ならない。 更にそれが示すのは、越光はライズが共鳴を起こすほど常人離れした発想の持ち主だと言うことである。
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