忌まわしきは煙の中に

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何らかの行動をしようとした時、それによりどんな結果となるのかを想像するのは当然のことである。それは限りなく本能に近い理念から来る思考であり、どれだけ肝の据わった大物や百戦錬磨の強者であろうと例外ではない。思考を磨くことはできても思考を意図して手放すことは殆ど不可能である。 しかし命を賭して戦うことを生業とする者は一々手足を止めて考えてから行動することは許されない。殆ど無意識で行動ができるよう日々の鍛錬で思考を短縮し、時には思考に頼らずとも経験と記憶だけで反射的に体が動くように場数を踏む。 無論、越光の過去はそのどちらにも当て嵌まらない。ただ一つ、それらに匹敵する行動力を手にする方法は、思考の余地もないほど強い決意がある場合のみである。つまり、越光は襲撃される前から手に持っていた羽根を食す絶対的な決意があったと言うことである。 「君にとってルゴールドの羽根は未知の力が詰まったカプセルだったと言うわけだ。きっと、いざと言う時のために隠し持っておくつもりだったんだろうね。それが僕のせいでとんでもなく前倒しになってしまって、いやあ申し訳ない!」 思わぬ逸材の発見に高揚し、流暢に喋り立てるライズのお陰で有子も状況を理解した。 (龍の血に飲み込まれた人間の末路は……見たことがある。一刻も早く元に戻さないといけない。でもどうしたら……) しかし理解したからこそ、越光への心配はより強いものとなり戦力として活用する気概が揺らぐ瞬間を痛切に感じる。同時に、主に龍希との闘いなどで自分が策略を発揮できたのは、周囲に自分を護ってくれる存在がいたからだと言うことも痛感した。 (そうか。私は、遂に魔法を手にしたのか……それも彼の、風の力……) そして越光にはライズの歓喜も有子の心配も届いてはいなかった。ただ薄れ行く意識の中で、自分にできることを探していた。
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