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不意打ちと言うたった一度の好機を逃した今、やはり越光一人の戦力ではライズに太刀打ちすることはできない。懸念を捨て、暴走する越光を利用してでも二人で立ち向かわなくてはならない。
有子が改めてそう決意した時、突然越光が振り向き目が合った。
「・・・・・・」
(え……?)
言葉はなく、その後は直ぐにライズの方を向き直してしまった。しかし先ほど見た越光の目の中には確かな光があった。眼球に浮き出た血管がまるで茨のように全てを覆い隠そうとするその奥に、微かだが揺るがぬ芯のようなものがあった。
(既に脳も殆どやられたらしい。口から言葉がでなかった。だが、彼女にはこれで十分だ。十分に伝わった筈だ。次の一撃に全てを込めると)
越光が確信した通り、そのメッセージは確かに有子には伝わっている。但しその一撃が何を狙ってのものなのか、それを成立させるためには何が自分に求められているかは有子が自分で見出さなくてはならない。
しかし、有子にもまた一つの確信があった。
(越光さんは戦闘の経験はないけど、既に龍希達と何度か冒険を共にした。それならその心は知っている筈……)
(ああ。知っているとも。蛮勇よりも崇高で、自己犠牲よりも猛々しい人間の覚悟と言うものを。君達の話を聞いてずっと憧れていたんだ。あの時何もできなった私がもし全てを投げ出す覚悟を決めた時、今度こそ危機は乗り越えられるのだろうかと)
少しばかりの『溜め』を挟み、越光は雄叫びを上げながらライズに突進する。有子はその後ろに続きライズを急ごしらえの覚悟で威圧した。
「僕は好奇心旺盛だけど戦闘狂ではないからなあ。そんなにバチバチ来られても困っちゃうよ」
背後は自らが結界の壁であり、引き付け過ぎると有子の射角からの逃げ場を失うことになる。ライズは惜しみながらも安全に回避することを選んだ。
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