忌まわしきは煙の中に

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ライズは防音の能力を備えた結界を張ることで二人が助けを呼べないようにしていたが、越光が放った渾身の一撃によりその目論見は崩れ去った。 ドアや窓が破壊されたことによる轟音は家の中にいる龍希達に届いている。異変を察知し、間もなくこの場に駆け付けてくれることは間違いない。合流に成功すればライズがたった一人で誘拐を完遂することは不可能なため、有子達の勝利も同時に訪れると言う状況であった。 そうなれば、ライズはその残された数秒で最後の勝負を仕掛けることは当然である。 「短いながら楽しい時間だったけど、そろそろ幕引きだね……!」 先ほどまで棒立ちだったライズが突如姿勢を低くして地を蹴った。その勢いのまま超低高度で滑空し、ほくそ笑みながら有子に手を伸ばす。 (越光さんは身の危険を冒してまで、私を守ろうとしてくれた。ここまで来て私が屈するわけにはいかない!) 最後の気力を振り絞る有子だったが、足から力が抜けて片膝を着いた。その後も踏ん張ることができず、迫るライズに大して一歩も動けなかった。 消耗にしては余りにも早過ぎる。恐らく最初にライズの植物で口を塞がれた際に、麻酔効果のある分泌液か何かを口腔の粘膜に染み込ませられた可能性が高い。 「そう……貴方も、おちゃらけてるように見えて万が一の備えはちゃんとやってたのね。やるじゃない」 しかし今更原因を推測してたところでその知見は無用の長物である。今最も大切なのは実を結んでしまったライズの保険にどう対抗するのか、それ以外に思考のキャパシティを割く意味はない。有子は全てを燃やし尽くして痛みに倒れ伏す越光から一片の勇気を貰うと、直ぐに対抗策を思い付いた。
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