蟻穴

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「でも、取り戻しに行かないと。兵士じゃなくても」 ルゴールドの話が一段落すると、龍希はそう言ってブランクと共に立ち上がった。 ことは一刻を争う。一旦家に帰って週末を待っている時間は愚か、こうしてゆっくり話し合っている時間すら惜しい。 わざわざ攫われたのだと言うことは、越光が早急に命を奪われる危険性はそこまで高くはないが、ルゴールドの血液を取り込んだことで生物として不安定な状態に置かれている。ライズやその背後にある組織がそれに対して望ましい処置をするとは限らない。寧ろ、それを悪い方面に活かすことありきで越光を攫ったと考える方が自然である。 「青山。学校のことは頼む。風邪でも引いたと言っておいてくれ」 「あ、ああ。それは良いけど……」 青山は心配そうに周囲を見渡した。自分はもう出しゃばるような真似はしないと誓っているが、その他に龍希に続いて越光の奪還に身を乗り出すメンバーが残っていないからである。 今回の襲撃事件の元々のターゲットは有子だった。故に同行させては本末転倒であり、楠木を脅威から保護するために人間界まで渡って来たルゴールドも同じである。 「こうして見ると、戦力が些か偏り過ぎだな。俺は元からだがルゴールドが移動できなくなったのが大きい」 バニアスは再び龍希に負担が集中してしまうことを危惧した。 「俺はいつでも力になるぞ。ルゴールドは俺の許しがあれば向こうに戻れるんだろう」 「楠木さん。気持ちは嬉しいけどそれだけにしておくよ。俺達を狙ってわざわざこっちの世界まで来た連中に、こっちから仲間を差し出すような真似はしたくない。有子も、青山も、俺がいない間にまた誰かがこっちに来た時のことを考えて残って欲しい」 そう思えば、ルゴールドやバニアスがこの世界を離れられないのは寧ろ心強いと龍希は言った。しかし、かつての悲劇を知るメンバーは中々素直に龍希を頼ることができなかった。
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