蟻穴

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「はは、前科があるとは言え信用ないなあ」 龍希が耐え兼ねて自嘲すると、エルトが気まずそうに弁明した。 「申し訳ございません。心配する気持ちと疑いの心は紙一重……いえ、表裏一体と言っても過言ではありません。それに私達は龍希様だけに負担を掛けない、次に何かあれば必ず力になりますと誓いを立てた身です。いくら此方で役割があると擁護して頂いても、また龍希様を送り出す立場に逆戻りしてしまうことに変わりがない以上、歯痒いのです」 この場を動けない全員がエルトと同じ気持ちであった。しかしその気持ち一つで事態が好転するようなことはなく、どこかで割り切ってもらわなくてはなあない。この板挟みにどう落としどころを付けて納得してもらおうかと龍希が無い止んでいた時、ブランクがこの流れそのものに待ったを掛けた。 「何故、龍希一人が行くかのような雰囲気になっているのだ。我は頭数にも入っていないのか?」 「いえ、ブランク様は龍希様と一心同体のようなものですので……」 「確かにその言葉が心地良い時もある。しかし違うぞ。我と龍希は身も心も別物だ。異なるものが合わさるからこそ……まあ、そんな言葉遊びは後で良い。とにかく、意図はどうあれ我を戦力外にするのは止めてもらおう。我とて龍希を悲しませた以前と同じでは、ない」 そう言って、ブランクは光の翼で龍希を包み込んだ。 ブランクが拒絶するあらゆる物からの干渉を許さない究極の防御であり、自分と共にこの力が龍希の側にある限り、前回のような悲劇は起こらないと胸を叩いた。そして何より、ブランクが主張したかったのはこの力の起源である。 「この翼は、皆を護りたいと言う想いが発現したものだ。つまりこの翼は皆から授かったものも同然。この翼と共に全員の想いを連れて行く。その翼で、想いで龍希を護る。だから我に任せろ」 この翼が証明するように、自分は想いを力に変えることができる。だからこそ想い残しをせず、全て自分に預けて欲しい。それこそが龍希を護る最善となる。そんなブランクの言葉が全員の心を纏め上げた。
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